B-side 3-2

 通常業務をつつがなくこなしながらも、植田の頭の中では未知が運ばれてきてからの十六日間の出来事が上映されていた。未知の再生速度は著しく、一昨日行ったシナプス検査ではシナプス密度下位三十パーセントにまで回復していた。未知よりも三日早くこの院に来た今井の検査結果が未だ五パーセントであることからも、彼女の凄さがわかる。

「植田さん、ビンゴです」

 警察署から帰ってきた丹原が興奮気味に植田に向かって走り寄ってきたので、近くにいた他のスタッフそして丹原の帰りを今か今かと待ちわびていた未知も、二人を取り囲んだ。

「ちょうど未知さんが運ばれてきた日に、東京都で二十歳の女性の捜索願が御両親から提出されていました。氏名は白木更紗、写真はこちらです」

 写真の中でこちらに向かってピースサインをする幼い表情からは、とてもその人物が成人しているとは思えなかった。しかしそんなことはどうでも良い。大事なのは、その顔がどう見ても今ここで未知として生活している人間のものだということだ。

「しらきさらさ……」

 未知は聞いたばかりの名を舌の上で転がし、咀嚼する。その響きは哀しいほど彼女にとって舌に馴染みが無く、植田に与えられた未知という名の方が自己を定義付けるもののように感じられた。

「県境を跨いでいるので、千葉県警が未知……白木さんを公園で発見したときには警視庁の方へ情報が共有されていなかったようです。警察の方から保護者の方に連絡をしてくださって、直ぐにこちらへいらっしゃるとのことです」

 丹原の声も、どこか遠くから響いているように聞こえる。自分というものの不確かさに泣き出しそうになりながら、ただひとつ残った恋心を華奢な腕で強く抱き締めた。

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