A-side 3-2

「あんたたち止めなさいよ、楓くんに訊けないことなんて分かり切っているでしょ」

 このまま言いたいだけ言わせて受け流すつもりだったが、正義感の強い凪見が見かねて口を挟んでくれた。しかしその叱責でさえも、彼らにとっては笑いの種でしかない。

「滑稽だよなぁ。アイエフだっけ、そんな存在が無いような奴にすら敵わないのはどんな気持ちなんだ、教えてくれよ里崎ぃ」

 嘲笑。

カラカラカラカラ耳障りなラトルだ、と和音は思う。悪い癖だと自覚しつつも、相手が玩具の遊び方もわからぬ赤ん坊だと思えば怒りを然したる努力無く鎮められることを知っているので、今回もラトルだと考えることで微笑ましくさえ思うことができた。

「俺は楓を産んだことも含めて、更紗のシナプス回路に惚れ込んでいるんだよ。人ひとりの人格すら含有してしまうなんて、美しいじゃないか」

 わざと猟奇的な笑顔を浮かべ、白けた場を切るように足音を響かせて最後尾の席へ向かう。更紗の隣であるはずの場所に座る様子を、戸惑いをはらんだ幾つもの瞳が映していた。

 二十歳シナプス定期検査が行われた次の日から、更紗は一度も大学に登校していない。検査を受けたその日の深夜、最寄駅の終電も無くなった時間に、更紗の母親から和音の家に電話がかかってきた。更紗がまだ帰宅しておらず、行方不明の当人とは連絡もとれない状況だと言うのだ。当然直ぐに警察にも連絡したし、更紗の両親も、和音とその両親も、夜通し捜しまわった。しかし手掛かりらしきものは何も見つからず、有力な目撃情報も得られぬまま今日に至る。もう二週間もの時が流れてしまった。今どこで何をしているのか。それを知り得るのは更紗本人、そして哀しいかな、揶揄された如くイマジナリーフレンドである楓だろう。

 どんな気持ちか――そんなの、悔しいに決まっている。しかしその美しい構造物の一部分になるには、自分は余りに穢れ過ぎていた。

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