A-side 3-1
いつも講義室に入ると、先に更紗がいた。何でも直ぐに理解できてしまう彼女にとって、授業も講義も退屈以外の何物でも無いはずなのに、不思議と彼女は学校という場所が好きらしく、小学校に入学してからつい二週間前までの十三年と半年の間、無遅刻無欠席を貫いていた。
更紗のシナプス密度は異常に高値で、全国統一シナプス定期検査の度に歴代最高記録を更新し続けていた。シナプス検査の結果は差別にも繋がることから極秘事項として扱われているし、当の本人は検査結果をひけらかすような性格ではないので、更紗が全国一位であることを知っているのは更紗とその家族、一要を含むシナプスに関する研究を行っているメンバー、そして更紗の唯一の友達である和音だけだ。
普段通りに登校し、扉の前に立つと静かに自動ドアが左右に割れる。視線の先、いつも更紗の座っていた席は今日もぽっかりと空いていた。無意識にこぼれた溜め息を、最前列で読書に興じていた凪見が拾い聞き、しかめ面を向けられる。
「毎朝毎朝、辛気臭いのよ里崎。そんなに白木さんが恋しいの」
「ああ、そうだよ」
からかうつもりがあっさり肯定され、クラス委員長は狼狽した。
「他人にそんなハッキリ言えるのに、どうして白木さんに告白しないの。あんたたちのこと小一から見てきたけど、いつの頃からかとっても歪よ」
「ずっと見てきたならわかるだろ、更紗は俺のこと友達としか思ってないって」
スッと後方で扉が開き、せき止められていた笑い声が廊下から雪崩れ込んでくる。
「あぁわかるよ、わかるとも。白木が好きなのはカエデ、だろ」
ぞろぞろグループで登校してきた五人の男子学生らは和音と凪見の周りを取り囲み、ゲラゲラ笑った。
「まだ白木は行方不明なんだろ。カエデに訊いてみろよ、きっと居場所を知ってるぜ」
彼らはそれぞれ、ピアスをしていたり大ぶりのネックレスを胸の前にぶら下げていたり目に痛い金色の頭髪をしていたりと、見るからに素行の悪そうななりをしていた。それでもこのクラスに所属している程度には、彼らの脳内には崇高なシナプス回路が形成されているというのだから、もう和音はこの目の前の不思議な不思議な光景に笑いを堪えるのが大変だった。口々に何やら暴言らしきものを振り掛けられているが、それよりも視界に気を奪われていて耳がお留守になる。相手からしたら無視されているようにしか感じず面白くないだろうが、それで飽きてくれたらこちらにとって都合がよい。
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