A-side 2-2

「そもそもミクログリア被害者は自業自得だし、学業への努力が足らない奴のために国の財源を使っているのにも納得いかない」

「寧ろミクログリアに綺麗さっぱり食べちゃってもらいたいよね」

 嗚呼、それはさぞかし素敵な世の中だろうなと更紗は思う。シナプス回路が未熟な人間が一人残らずミクログリアのおやつになって、発達した思考回路を有する者だけが切磋琢磨し生きる世界。

「僕も素敵だと思うよ」

 楓の賛同も得てご機嫌な更紗は、同じく隣の席で静かに成り行きを傍観していた和音にも自身の考えを話す。

「保護が無くなったらミクログリアがこれまでよりも容易に餌を得られてしまって、増殖するかもしれない。それは良いのか」

「勿論、それも承知の上で言っているの。お腹を空かせたミクログリアは、シナプス密度下位の頭スカスカな人間から次々食らっていって、そして最終的に極一部の優秀な人間のみが残る。ミクログリアは過度に発達したシナプスを消化できないことが政府機関の研究でわかっているし、そこまで来たら勝手にミクログリアも絶滅するでしょう。税金を無駄に消費して保護しなければならない人間も減るし、一石二鳥だと思う」

 楓は首を大きく縦に振ったが、和音は黙り込んでしまった。

「和音は、もし自分がミクログリアになっても馬鹿を食べてしまいたいとは思わないの」

「食事なんだから、食べたい食べたくないという問題じゃないよ。それに馬鹿とか差別的なことには賛成しかねる」

 それもそうか、不毛な議論をしてしまったと更紗は納得しかけたが、一方で楓は和音の言い分が気に食わなかったらしく「お前のそういうシナプス弱者を擁護するような態度が無理だわ」と悪態をついた。

「次、里崎くんだよ」

 凪見に声を掛けられ講義室を出る後ろ姿を見送ってから、更紗は未だ苛ついている楓を宥めにかかる。

「どうしてそういつも、和音に楯突こうとするの。幼稚舎からずっと同じクラスなのだし、仲良くしたら良いのに」

 質問には口をつぐみ居心地が悪そうにしている。楓は意地悪なのではなくとても不器用なだけだということを、更紗はよく知っている。高校生になった頃から、楓は和音にきつく当たるようになった。和音に対して反抗的な態度をとってしまう度に、楓は更紗に問うのだ。

「僕の方が好きだよな」

 その幼い独占欲に、ただ応える。満たし合えればそれで良かった。

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