A-side 2-1

 わかりきったこと、直ぐに理解してしまえることに対する説明が続く苦痛な時間をやり過ごし本日最後の講義が終わると、講師と入れ替わりに大学の事務員が教壇に立った。直ぐに帰宅しようとしていた学生は口々に不平不満を漏らしていたが。

「これから全国統一シナプス定期検査を行います」

 しん、と水を打ったような静けさが訪れる。一瞬にして、空気が張り詰めた。

「皆さんご存知かとは思いますが、念のため改めて説明させて頂きます。日本では法律で二歳、五歳、十歳、十五歳、二十歳に対する全国統一シナプス定期検査が義務づけられております。これは危険生物ミクログリアからの保護の必要性を判断し、国民の安全を保障するためです。今この講義室に居る第一類シナプス特別強化生――通称一類シナ生の皆さんは、これまでの四回の定期検査全てにおいて、同年代のシナプス密度順位上位一パーセントに入ってきた方ですね。この二十歳での検査が公的に行われるものとしては最後となるシナプス検査です。それでは学籍番号の一番若い方、私が案内致しますので一緒に別室へ移動して下さい。他の方も順次お呼びしますので、このまま講義室でお待ちください」

 公的検査による検査値がもつ影響力の大きさから、不正が生じないようにシナプス定期検査の詳細は勿論、日程も極秘事項とされている。そしてそれを拒む権利は誰にもない。最初の学生が事務員に連れられ部屋を出る。

「私シナプス検査の制度自体は好きだけど、その度にされる説明文句は嫌い。大人の汚い建前はうんざり」

 講義室から大学職員が全員いなくなると、クラス委員長の遠野とおの凪見なぎみが吐き捨てた。それを皮切りに学生たちの間で次々と意見が飛び交う。

「俺もそう思う。政府の名目は『超危険性物ミクログリアからの保護の必要性を測ること』だけど、それはあくまでシナプス検査を正当化するための口実だろ。だってそれだけのためなら、わざわざ俺らみたいな特別強化生まで検査する意味がない。実際はこの検査値によって受けられる教育課程や待遇が大きく変化する、振るい落としじゃないか」

 最後列窓側の席に腰かけたままの更紗は、クラスメイトが口々に意見を言い合う輪には入らない。しかし無関心どころか嬉々としてその論争に耳を傾けていた。

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