第40話pandemonium pariah
ザィトスは神ことダレルラルラに敗れた。しかしコード変換により身体がグズグズに溶けて死ぬ間際を、新井と陽菜による封印によって助けられた。
ダレルラルラに妨害されぬよう、2匹は一度宇宙へ逃げた。
ダレルラルラは初めに、ドルルイフという生物を作り出した。見た目は管のような物が絡み合っており、シルエットでみると魚のような形をしている。また、その管はガラスのように厚く透明で、中には水色の液体が流れている。
ドルルイフはこの星のたった一匹である破壊を象徴する生物としての役割を与えられ、海に放たれた。
数億年後
当時11歳の筒木緑は、砂浜に打ち上げられたドルルイフを発見した。身動きが取れない状態で、死んでいるように見えた。
「…………」
筒木が興味本位でドルルイフを鷲掴みすると、ドルルイフは生き返ったように暴れ出した。はなすまいと筒木も力を入れた。
ドルルイフの体液が力点を離れ、上下に集中していった。やがて上部の体表の膜が破れ、液体が勢いよく地面に溢れていった。
かに思えた。液体は重力を無視し、筒木の口に飛び込んできた。
「…うがっ!」
口の中が液体で満たされ、溢れ、無理矢理喉をこじ開ける。鼻から必死に呼吸することを強制され、生と死を実感させる。苦しい。だが、筒木は力を入れることをやめなかった。
───このまま死んでしまっても、良いかもしれない。
両親はもう三週間帰ってきていない。おそらく、一ヶ月前の震災を口実に私を捨てたのだろう。元々お互いを一番大切にする両親だったし、私も彼らが嫌いだった。だからなんの未練もないし、悲しみもない。
死ぬのが怖いという理由で家にあった食糧を食って生活したがついに底をついた。今日淡い期待と浅はかな考えでこの海に来たが、そもそも魚なんて不味くて食べたくない。もう生に執着するのも滑稽で無駄だし、最後に少しだけ苦しもう。
やがて筒木の身体にポツポツと穴が開き始め、そこから血液が噴出した。不思議と痛みはないただ死が身近に感じる。筒木はさらに力を込めた。
……………。
筒木の周りには、大きな血溜まりが出来ていた。
筒木の血液が全て水色の液体に入れ替わり、新たな精神生物を生み出した。
…………………。
───私の名前はリダ。液体と肉で構成された生命体だ。
本能的に、筒木の記憶とドルルイフの記憶を併せ持つ生物ということがわかる。筒木緑の記憶から、死はそれなりに悪、一般的正義が人間社会にはあるということがわかる。ドルルイフの記憶から、種の存続が大切、自分のことを本能に刻みこむことが大切というのがわかる。
私は自分がなんなのかを知らなければならない。そして、何かしなければならない。本能が呼びつける誰かのために、私は目標を達成しなければならない。
リダは目の前にあった緑色の海に足を踏み入れた。
数年後
リダは数々の実験、経験を繰り返し、海から上がった。
───でも結局、私が生まれた意味はわからなかった。
………………。
数十年後
平井は海を眺めながら呟く。
「茅も死んだし、新井くんも死んだ。いいなぁ……死ねて」
私は化け物だ。
嫌いなものは嫌い。70年殺され続けても、やっぱり死ぬのは嫌い。肉で全てを包み込んで、皆殺しにしてやる。
怖いなら死ねよ。嫌な思いをしたくないなら死ねよ。文句言うなら死ねよ。助けて欲しいなら死ねよ。疲れたなら死ねよ。嫌なら死ねよ。嫌いなら死ねよ。
流れる様に生活していたかった。
退屈だ。
化け物って何だよ。
私って何だろ。
一人暮らし、もっとしたかったな。
緊張するな。
ナメんなよ。
私は人に迷惑をかけるのが嫌なのかも。
餃子美味しかったな。
…………。
…………。
人間って案外強いよな。
…………。
面倒くさいな。
桑原さんって何だったんだろ。
…………。
アレ何だったんだろ。
……私、マジで人間じゃないんだな。
コンクリきつかったな。
休みたいな。
吐くのって痛いな。
戦いたくないな。
足の断面ってキモいな。
新井くんって何考えてんだろ。
休みたいな。
テロって何だろ。
私人殺すの楽しんでるかも。
グロいのも慣れたな。
うーん……。
…………。
汚いのはヤダな。
はぁ……。
陽菜離上って何だったんだろ。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
これで踏ん切りついたかな。
…………………………………………………。
しょうがないって思ってよ。
何も言わないでよ。
関わらないでよ。
見下さないでよ。
私自身のことを考えてくれる人はいなかった。
なんで私のこと知ってるんだよ。
存在してるだけで嫌いなんだよ。
私のことを見ないでよ。
嫌な気持ちにならないで。
死んでよ。
品性なんかいらないんだよ。
倫理なんかいらないんだよ。
弱っちいくせに理性なんか持ってんじゃねえよ。
意思を持たないでよ。
どうすればいいんだよ。
私を認識しないでよ。
『パンデモニウムパレード』
ラヴァの目の前で、イトが死んだ。
肉に包まれ、首が捻じ切れた。
世界の半分を、肉が覆っていた。
「杜若さん、逃げよう」
ラヴァが杜若の手を握る。
「……?どこに?」
「いいから来てよ」
杜若はラヴァについていく。
「種の存続が大事なの。杜若さんも死にたくないでしょ?」
「もう無理だろ。生きても住むところがない」
「あるよ。最終手段だけど。ここを脱出する」
ラヴァは杜若を無理矢理部屋に押し込む。
「なるほどね。おもろいな。」
杜若は声を漏らす。
「ん…ぐっ……はぁ…」
杜若がフィニッシュしたと同時に、ラヴァの腹部から生えた触手が二人を包む。
「本来子供を守るために使う肉と煙だけど、一気に使うよ」
そういうと、ラヴァは触手から煙を一気に吹き出し、空に向かっていく。
やがて地球を脱出し、宇宙に出る。
「ぎゃはははははは!!やっぱり面白いなぁ!非日常は!未知は!なんで息ができるんだ!」
杜若は爆笑する。
平井の肉が、どんどん地球を覆っていく。
何年も何年も地球上の生命を潰し続け、平井は大きくなっていく。吸収し、強くなっていく。
EP40
「はぁ……。やっと現れたな。神……」
pandemonium pariah
…………。
◼️年後
杜若が地球に帰還する。
「………………なんだ、これ…」
杜若の視界に入り込んできたのは、肉に包まれた真っ赤な世界だった。
コードが書き換わり、見たこのない生物、見たことのない物質で溢れていた。
平井は髪の毛を風になびかせ、世界を見渡す。
「はぁ……。結局お前は死にたかっただけだったんだな。しかも変なプライドまであって……」
神の死体を解体し、飲み込み、吸収する。
───これで、私のいない世界になる。
完
パンデモニウムパレード @gyarooo
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