第39話遮蔽

「…………」

藤田と平井が、砂浜の中を歩く。海が近くにあるらしく、波の音と特有の匂いがする。

「結局何だったんだろうな。お前は」

藤田が平井に問いかける。

「わからない。結果として私は生きてる。私は最初から、人間じゃなかったのかも」

「……それはそれでいいだろ」

「そうだね」

平井はそう呟くと、藤田の顔面を殴り飛ばした。


EP39 遮蔽


ラヴァは液体になったはずの新井の部屋の中で目を覚ました。

「ラヴァ、起きた?」

声のする方に視線を移すと、杜若が横に座っていた。

「おはよう、杜若さん。どうなりました?あの化け物は」

ラヴァは立ち上がり、あたりを見渡す。

街は何事もなかったかのように再生していた。

「すごいでしょ。神の力かな」

杜若がラヴァに話しかける。

「うん……。杜若さんはさっき起きたんですか?」

「そう。あの日から二週間経ってる」

「なるほど……。あ、イトはいる?探しに行かなきゃ」

「ん。じゃあ」

ラヴァは新井の部屋を出る。


最初にザィトスが窓を破壊した部屋にいってみると、やはりイトの声がする。どうやら誰かに電話をしているようだ。

「はやく平井の拘束を急いでくれ。頼む」

ラヴァがドアを開けたタイミングで、イトは電話を切る。

「ラヴァ。起きたのか」

「うん。おはよう、イトはいつ起きた?」

「俺もさっき。気づいたらここにいた。いま平井の所在がわかったらしいから拘束をお願いしてたとこ」

「拘束?」

「うん。アレで生きてるんだし、不死なのはほぼ確定だろ」

「なるほどね」


…………………………


一方、新井はラヴァ達より少し早くに目覚め、車で街を脱出していた。

てきとうにホテルに籠り、息を潜めている。

────カツン

ドアの向こうで、足音が聞こえる。

「……………」

新井は部屋の隅でうずくまる。

コンコン

ドアが2回ノックされる。

「……………」

ガチャ

ドアが開けられる。

……?待て。鍵を閉めたはずだ。

「……………」

新井は視線を少し上に上げる。

「澪か」

反射的に呟く。新井の前には、服が砂まみれになった平井が立っていた。大きなリュックを背負っており、中には何かが入っている。

「すごい久しぶりだね。新井くん」

「ああ…うん。久しぶり」

「大丈夫だよ。新井くんの正体は知ってる。昔食べさせてくれたお菓子が、あのイカみたいな化け物だったんだよね」

「あぁ……。そう。で、でもそのおかげで澪は死ななかったんだ!ダレルラルラがザィトスを完全に殺すために、澪に封印するために、吸収させるために……。不死能力を付与して、……。澪には70年は長かったかもしれなかったけど、桑原には殺されなくて済んだんだ!それで……」

平井は新井の言葉に唖然とし、無視する。

「……。顔、あげて」

平井はリュックをのチャックを開け、中身を地面に落とす。

「……………」

新井は言葉に詰まる。新井の前には、二つの生首が転がっている。

「暗くて見えるかわかんないけど、右が陽菜って人で、左が藤田」

「………………」

「えっと……人の死体って思ったより重くてさ。首しか持ってこれなくて」

「………頼む。殺さないでくれ」

平井は新井の言葉を無視し、ホテルに置いてある植木鉢を両手で持つ。

「………澪、頼む」

新井は必死に藤田と陽菜の首を視界から消し、平井の方を見る。

「新井くん。昔さ、私怖がられるのが嫌って言ったじゃん」

「うん…」

「でもさ、気づいたんだよね…。私は怖がられるのが嫌なんじゃなくて、私のことを怖がるヤツらが嫌いなんだって…」

平井は口を動かしながら、新井の方に足を進める。

「………」

新井の額から汗が垂れる。もう、平井に抵抗する力も持っていない。生きたい、と思うことしかできない。

新井が生命の危機を感じ助けを懇願しようとすると、

「その顔だよ!」

と平井が新井を怒鳴りつける。

「その顔!私より弱いくせに、情に訴えてくるような顔!」

新井は反射的に平井から視線を外す。

「でももういいよね。私は70年も閉じ込められて苦しい思いしたわけだし、殺されても文句言えないよね。私を怖がるヤツらなんか、私のことを認識しない場所に行けばいい」


平井は新井の頭めがけて思い切り植木鉢をぶつける。

植木鉢は新井の頭にぶつかった後、床に落ちて割れる。

「痛い?」

体勢を崩し地面に這ばる新井を見て、平井は問いかける。

「ぐが…………」

「何?」

平井はしゃがんだ後、新井の髪の毛を引っ張り、自身の顔に近づける。

「血はあんまり出てないね」

「…………」

新井は平井の顔を真っ直ぐ見ることが出来なかった。

「ふふふ。新井くん、痛いね。苦しいね」

「……頼む。殺さないで…」

「イヤ。無理」

「…………」

平井は新井の頭を思い切り床にぶつける。

「……………」

「……………」

平井は新井から手を離す。

「………えっと、なんか言い残すことある?」

「物質Aは、ザィトスの力は、ふ、藤田は死んだのか?それとも、」

「………。吸収したよ……」

平井は立ち上がり、そのままホテルを出る。

新井は顔を上げ、再びうずくまる。


平井はホテルを出て深呼吸をした後、肉でホテルを覆い、潰す。

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