第38話未知
ザィトスの足元には、肉を変形させ変身した藤田が立っていた。
藤田はザィトスの視線を確認すると、不適な笑みを浮かべる。
「なあ、壱ノ瀬茅には何が入ってたんだ?すごい力が湧いてくるんだけど」
「……どうやって吸収した?」
「どうやってって…細切れにして食っただけだよ。一時的な吸収にはなるんじゃ無いかと思って」
「はぁ……虫ケラが抵抗しようと無駄だぞ。お前達弱者は自分などないくせに自分が消えることを嫌う。消してしまった方が楽なのに、強大な力に抵抗する」
「いや、俺はもうちょっと人生楽しみたいし…」
「お前達の存在は生と死のジレンマによって成り立っている。生きたまま努力して幸福を得るか、死んで未知の幸福に賭けるか。お前が手にしたその力もどういうものか分かってないだろう。お前が今死んだらこの世界は終わる。少なくとも今生きている生物は死ぬ。だが見てみろ。普通なら倫理のブレーキが外れて世界が混沌と化してもいいものを。何も起こらない。折角70年前、一時でも世界を手にした力を持っているのに。危機感が足りていない」
「あぁ…。うん。俺もそれは思った。だから俺もいま家族とか殺して来たんだけどさ。いや、まあそれはいいか」
「……。」
「グチグチ言ってるけど、戦いや殺しに理由つけたって無駄だぞ。お前はその合理的思考で成り上がってきたんだろうが、それが通じないヤツだっているんだ。俺はこれからも人生楽しみたいからお前を殺す。それでいいだろ」
「そうだな……。俺も幸福を取り戻したいだけだ」
「ああ。敵は全員虫ケラだからな」
互角だった。藤田の身体が欠損した時には、ザィトスの身体も欠損している。そして次の攻撃をした時には、再生している。世界が悲鳴をあげ、大地がうねった。
全てのことはわからないまま、生命は輝きを失う。
全ては未知のまま、答えを出せないまま、死んでいく。
化け物についても、神についても、自分自身についても。
この存在は、未知で埋め尽くされている。定義はできない。
EP38 未知
雲が降った時、藤田の身体が崩れた。
ザィトスが脳で勝ちを確信した瞬間、神が舞い降りた。
「ダレルラルラ……これを望んでたのか。俺だけを消し去るために………」
重く淀んだ生命は、自分の力の過信と共に、首の中に沈んでいった。
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