第37話吸収
「ザィトス様。おひさしぶりです」
ザィトスは新井の方に首を傾ける。
「ザィトス様。この女にアレ…物質Aが入っています。その吸収能力で、力を取り戻してください。」
新井がそう言うと、ザィトスは壱ノ瀬の方に首を傾け、口から舌を延ばす。
「ひっ」
細く延ばされた舌は一瞬で壱ノ瀬の腹部を貫く。
「あ゛ぁッ!……。ねぇ、新井……。なんなの。どうなってるの?私の中に何が……」
新井は壱ノ瀬の言葉を無視し、手に力を込める。
「私は死ぬの?」
体の中に、何かが入ってくる感覚がある。細かい隙間を、埋め尽くすような感覚が全身を襲う。
「グゔぅ…。気持ち悪い……」
壱ノ瀬は新井の瞳の奥を強く睨む。頭の中で、最後の言葉の候補が乱立する。新井が何者かもわからないし、みんなに別れの挨拶もしたい。澪が閉じ込められてから、私は結局挨拶しか出来なかったから、それも謝りたい。私も人を痛い目に合わせて来たし、最期を美しく飾るつもりはなかったけど、駄目だ。どうしても自己中心的な無力感が心を黒く塗り潰す。
朦朧とする意識の中で、壱ノ瀬は声を振り絞る。
「死ね」
視線は誰の向きでもなく、床に散らばった窓ガラスに向いていた。
その瞬間、壱ノ瀬の首が飛んだ。
EP37 吸収
「は?」
ザィトスが思わず声を漏らすと、舌が器用に引き抜かれ、切り刻まれる。
「…………」
新井が壱ノ瀬の手を離し、倒れた死体の背後から藤田が現れた。
藤田は触手で壱ノ瀬の死体と首を包み、走って部屋を出る。
「待て!」
ザィトスが声を上げた時には、藤田の姿はなかった。
「新井!早く捕まえろ!」
ザィトスが言葉を言い終わる前に、新井も部屋から姿を消した。
「グゥ…クソッ!」
ザィトスは巨大な拳でビルを殴り、新井の部屋を液体にして溶かす。
「うあ」
ラヴァは触手で受け身を取った後、ザィトスの元から走り去る。
「……………」
ザィトスは強力な気配を感じ、自身の足元を見る。
殺意
※EP19参照
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