第36話目的
「イダが死んだけど、どうするの?」
ラヴァがイトに問う。
「ここまで来たら、アイツが言ってた神が現れるまで待つしかないんじゃないか?それまで避難するしか。俺達の目的は種の存続だし、俺らが死んだらまずいだろ」
「そうだね…でもさ、さっきアイツが進んだルートを調べたんだけど、明らかにアイツこの会社への最短ルートをたどって来てるんだよね。だから私達の居場所がバレてるのか、ココに何かあるのかも」
「目的が俺達ってのはやばいな…。まあ最悪の場合藤田もいるし、最終手段もあるし大丈夫だろ」
「そうだね」
会話を終えた瞬間イトとラヴァがいた窓が全て破れる。
「……………」
破れた窓向こうで、巨大化したザィトスが顔をぬっと覗かせる。
ラヴァは反射的に呟く。
「嘘…ここ四階だぞ…」
「部屋から出ろ。ラヴァ」
イトはラヴァを睨んだ。
「う、ぅん」
ラヴァは後退りしながら部屋を出ていった。
イトはザィトスに視線を移す。
「待て。ここに来た目的はなんだ」
「………」
ザィトスは無言でイトの方向に腕を伸ばし、握り潰そうとする。
「うわ」
イトは高速で部屋の隅に移動する。
「目的は俺達を殺すことか?」
「いや……?」
ザィトスはイトがいるビルを殴り、破壊しようとする。
「目的は俺たちじゃないのか?」
イトはザィトスに近づきながら変身する。長い首を延ばし、ザィトスの頭部を噛みちぎる。
「ペッ」
イトは巨体を振り回し、ザィトスをビルから遠ざける。
…………………。
ラヴァは杜若のもとに走る。
────真偽は怪しいが、ザィトスは私達を殺すことが目的ではないらしい。つまりザィトスがここに来た目的はこのビルにある『何か』を探している。
何年か前、澪さんの経歴を調べてみたけど生まれた時は確かに普通の人間だった。少なくとも澪さんは桑原さんに殺される前にザィトスを体内に宿している…。いや、よく考えたらママの変身をあんな近くで見ていたのに生きていられるはずが無い。その時ザィトスに変わらなかったのは疑問だが……一回様子見でもしたのだろうか?。それとも私達みたいに肉を一定量食べさせなきゃいけなくて変身出来なかったとか…?。でもそう考えるとママが澪さんを改造する前にザィトスはもう宿っていたことになる……。それまでに澪さんと知り合いで、このビルと関わっているヤツ…。
「……………」
ラヴァは携帯電話を取り出しながら踵を返す。
EP36 目的
「新井!」
壱ノ瀬がドアを開け、声を上げる。化け物の力で、70年前と姿が変わっていない。
「新井!私達も早く避難しよう!化け物がもうそこまで来てる!」
「……………」
壱ノ瀬の言葉を新井は無視し、窓の外を眺めている。
「どうしたの?早く!」
「思ったより長かったよな…70年って。」
新井は壱ノ瀬のもとに駆け寄り、手のひらを思い切り掴む。
「ぃ痛い!」
壱ノ瀬は思わず声を上げる。
「どうしたの?新井、避難しないの?しないなら離して。私死ぬ前に澪に挨拶だけでもしたい…」
壱ノ瀬は焦っていてニュースを見ておらず、ザィトスの正体が平井ということを知らなかった。
新井は無言で微笑む。
「………………」
「なに?早く離して。心中でもしたいの?」
壱ノ瀬が新井を睨むと、後ろからラヴァの声が聞こえる。
「新井。何を隠してる?澪さんに何をした?お前は何者だ?」
新井は舌打ちした。
「もう手遅れだから諦めろ。あいつにお前らは勝てない」
「何が目的だ。このビルには何がある」
「目的はテレビで言ってたろ」
「……このビルにアイツが来たのは何が目的だ」
「それはアイツが来るまで言えないな」
「……………私達が目的ってわけじゃ無いんだな」
「お前らは自分が人間と比べて特別だと思ってるかもしれないが、世界はもっと広いんだ。少し予想外だったが俺達からみたら人間もお前らも変わらないんだよ。目的も何も、お前らは殺される」
「そ…」
ラヴァが新井に何か言おうとすると、壁一面を覆う大きな窓が全て破れる。
窓の奥にいたのはやはりザィトスだった。イトに噛みちぎられた頭部が、もう再生している。
部屋の中と外の温度が交差する。それに混じって、ザィトスの息が流れる。
新井は壱ノ瀬の腕を引っ張り、ザィトスの方に駆け寄る。
「ザィトス様…お久しぶりです」
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