第32話本懐

70年後


「………………」


EP32 本懐


伊唯(イユイ)美佳(ミカ)は、日差しに照らされながら長い階段を登る。

「すいません、あとどんくらいで着きますか…?」

伊唯は声を振り絞って案内人に質問する。

「あと10分ほどです。頑張ってください」

案内人は振り返り、無理矢理笑顔を見せる。

「はぁ……」

汗が地面に落ちる。


10分後


「いや〜、やっと着きましたよ。」

案内人は伊唯に笑顔で話しかける。

「ふぅー、…この先にいるんですね………」

「はい!ところで伊唯さんはなぜ彼女に興味を持たれたんですか?かなりお金が必要になると思うんですが」

「ただの趣味ですよ。学校が長期休みで暇なんで、来てみたって感じです。バイト代も使い道なかったし…」

「なるほど…若い方で彼女に興味がある人って私あまりみたことなかったので…」

「あはは、そうですね。学校でも趣味が合わない人が多いです」

一通り会話を終えると、案内人は目の前にある扉を開ける。

「ひゃあ〜!やっぱ写真で見るのとは全然違いますね!なんか匂いも!うわー、触りて〜」

伊唯の声が一音上がる。


特殊加工されたガラスで仕切られた部屋の奥には、剣や釘、テープやコンクリートで磔にされている平井の姿があった。

平井は真っ黒な目で伊唯を見つめている。

「………………」

伊唯は平井から目を離し、案内人の方を睨む。

「どうかされました?」

「あ、いや……」

伊唯は案内人から平井に視線を移す。

「あの、すいません。今この状態で平井の意識はあるんですか?」

「はい。今は起きてるのでそうですね。それに昨日餓死したばかりなので体も綺麗です」

「へー。ありがとうございます。じゃあ声も聞こえてるんですか?」

「いえ、分厚いガラスなので…ここからの声は届きません」

「なるほど」


数分眺めた後、伊唯は部屋を出る。

「あの、もう宜しいんですか?」

「あーはい」

言葉を発すると同時に、案内人を殴りつける。

「んみぁぐッ…!」

伊唯の腕はぶくぶく膨らみ、案内人の首を握りつぶす。

「ふう……あとはこのガラスだな…。少し勿体無いが、コレを使うか」

伊唯はポケットの中から薬のカプセルを取り出し、ガラスに投げつける。

「足りるか……?」

ガラスはみるみる溶けていき、人が一人入れるくらいの穴が空いた。

「……………………」

伊唯は平井に近づき、耳元で囁く。


「お久しぶりです、ザィトス様。陽菜離上です」

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