第30話偶像崇拝

「これを、あなた達に食べて欲しいんです。」


「え?」

ラヴァは壱乃瀬の手に無理矢理肉を持たせ、困惑を無視しドアを閉める。

「…………。」

「それ…デカいバケモンの肉だな………。もう計画が進んできてるのか。」

新井がテレビを見ながら真剣な顔で言う。

「計画?」

「うん、国民全員に人間をやめさせる計画。杜若さんから聞いたんだけど、国民全員が藤田みたいなバケモンになってこの世界の上位存在になる…。みたいな」

「何それ……。化け物になりたくない人もいるんじゃないの?」

「どっちが多数派になるかわからんな。バケモンは力でねじ伏せることができるからあれだけど」

「うん…」

「時代が変われば価値観なんか変えられる……。それに、日本人だからな」


EP30 偶像崇拝


杜若とラヴァが、肉を配りながら話す。

「悪いね、杜若さん。こんなんに付き合わせちゃって」

「いや、個人的に好奇心が満たされる感じで楽しいから良いよ。もうすぐ退屈な世の中が変わるんだ。もしかしたら生きやすい世界が見つかるかもしれない」

「ずっとそれ言ってるよね…」

「けど、なんで日本なんだ?島国だし人口も少ない。世界を敵に回すには心許ないんじゃないか?」

「まず世界征服は人があんまり多くない方が良いんだ。裏切り者が出るから。それに、日本の性格が世界征服に都合がいい」

「なるほど」

「日本人は上っ面の自由主義を盲信して、個人を確立してると思ってる。生に何かしらの理由をつけて、自分を必死に慰めて、薄っぺらい生の中を流れている。そして強制ともいえる大衆文化、一般的正義論、幸せにふたをする自己中心思考への厭忌感情、そして何よりそんなものを愛でる迎合性。これ以上世界征服に適した国民はいない。日本人は化け物になることで、足るを知れと蓋をしていた幸福が身近な存在になり、中毒になる」

「………」

「上に立ってると錯覚もしやすいだろうしね」

「はぁー……面白い」

「まあ偏見からくる定義だから、わかんないけどね」

「うん。正直日本人じゃなくてもいい気がするけど…。でも圧倒的な力の前には殆どの人がひれ伏すと思う」

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