第25話修行

数日後


「おはよう!」

耳元で誰かが叫び、平井は飛び起きる。明らかに壱ノ瀬では無い。けど男でも無い。誰だろうと思い、薄めを開けたまま顔を上げる。

「ラヴァさん?」

まだ視界がぼやけていて少し薄い茶色のような、濃いベージュのような髪色で判断したが、間違ってなかったようだ。

「や、澪さん。ちょっと着替えたら呼んでくれる?外で待ってるからさ」

「はい……」

何故?と聞き返す隙もなく、ラヴァは部屋を去っていった。

知らない間に、足がスネ半分くらいまで再生していたので平井は壱ノ瀬の手を借りずに着替えられるようになっていた。もうすぐ完治で車椅子も入らなくなる。平井はベッドの横に置かれた車椅子に滑るように乗り、タイヤを回して自分の部屋のドアの前に移動し、3回ノックする。


ラヴァがドアの合図に気づき、ドアを開ける。

「よし。着替えたね」

「はい」

ラヴァは平井の後ろに周り、車椅子を押し始める。

「澪さん、君の身体をちょっと調べたんだけど、私達の力と何か別の生物の力が混ざってるっぽいんだ。」

「そうなんですか」

「うん。で、私この前の戦いを見てて思ったんだけどさ。あなたは煙の使い方を理解してない。この前みたいな戦い方をしたら、たとえ死なないとしても痛い思いをすると思うんだ。だから今日から私が教えられるだけ力の使い方を教えようと思う。」

「えっと………」

先日化け物に言われたことと同じことを指摘され、平井は少し顔を顰める。

「君を化け物にして強くしたいわけじゃ無い。あくまで傷とかをつけないためにだ。煙を使えば、人間の武器や技術はほとんど通用しなくなる。それに、状態変化で水や氷にして使えば私達特有の武器ってのが使える」

「斧とかのやつですか。」

「そうそう。人間なんかとは格が違う、力の使い方さ。」


(表紙)


簡単な変身方法がわかった。


自分に『責任』を押し付ける事だ。

変身できなかったら私の利用価値なんてない、と思い込むことだ。私を殺す瞬間の桑原さんの目が、いまだにフラッシュバックする。あれを思い出すたび、身の毛がよだち、冷や汗が止まらなくなる。それで殺意が芽生える。

沸点が低くなったのだろうか。だがそれでいい。その方が楽だ。


殺意


EP25 修行


平井とラヴァは、会社の地下室に来た。そこは真っ白な壁と床の長方形で、様々な場所にライトが付けられている、質素で広大な部屋だった。


「まずは煙を出す方法。君の場合は目?みたいな所……かな。そこから放出する。感覚としてはゲップを出すような…。屁を出すような…。たぶん変身している時は何かが溢れそうって感覚になるはずなんだ。怒りが湧き上がる感じ。そのモヤモヤを、今まで君はぶん殴ったり叫んだりして和らげていた。けど今度はそれを溢れさせる……わざと力を緩める感じだな。」

「やってみます……」


殺意


変身すると、確かに変な感覚に襲われる。暴れたくってたまらないような感覚。肉を引きちぎりたいような感覚。

今までに私も口あたりから煙を出した事はあった。けどその時は力を緩めて溢れさせると言うよりは、歯を食いしばったあと叫び押し出すような感覚だ。雄叫びのような。

「ぅぐっ…」

叫びたい。壁を殴りたい。何かを殺したい。そんな感情を殺して、私は全身の力を抜く。

「耐えて耐えて。頑張って。」

うるさい……なぁぶっ殺すぞ…。殺してやる……。こんな事本当は思っていないが、心の中だけでも叫んでないと気が狂いそうだ。………もう狂ってる気がするけど。


ヴシュウウウウウウウウゥゥゥゥゥ………

口や目から出た大量の煙と共に、私は膝から崩れ落ちる。

「うわっ。おー、いっぱい出たね。これで穴が広がって出やすくなったはずだ。これからはこれを常にやってもらう。」

「フォヴェェエ……」

「キツイのはわかってる。でもいつ政府がくるかわかんないんだ。急ぎ目で行く」

「クゴゥ……」

「一週間程で修行を終わらせる……。あ、煙止まってる!もっと出して」

「アヴェエエエェェェンモ!」

平井は煙を出し続ける。歯がガタガタ震えて、まともに喋れない。

「ンモギイイ」

その後何時間も煙を出し続け、その日は終わった。


次の日


「次は状態変化。この煙は普通の水とかと違って自在に状態変化ができるんだ。原理はよくわからんけど。

それで武器を作る。体の中に液体を流し込んで肉を膨らませて、型を作っておくと作りやすいんだけど……。言われてもわかんないよねー。これはもう怒るとしか言いようがないんだ。私はもう怒らなくてもできるけど、こういう戦闘機能を利用するには人間は怒るしかないらしいからね。私も最初は苦労した」

「なるほど……怒る………やってみます」

「うん。がんば」

正直、煙を出すのに必死で怒っている余裕なんかない。違う事が考えられない。


それから2日経った。


ラヴァももう部屋に帰り、平井は地下室に1人取り残された。

平井は立ち尽くしたまま、煙を出し続けた。

もう3日間何も食べてないので、自分でイライラしてきてるのがわかった。今ならイケる。かも。


「ゥヴァァァィングゥゥゥゥハグァァァ!」

行けるかもと思いおもい切り叫んでみたが、平井は口から血を噴き出しその場に倒れ込んでしまった。

「大丈夫!?」

ラヴァが階段から降りて地下室に走ってくる。平井の叫び声が上まで鳴り響いたらしい。

「素質はあると思ってたけど、すげえな……」

ラヴァの前には、水色の塊と膨れ上がった私の肉が、地下室を覆い尽くしていた。

次の瞬間、平井は気絶した。


次の日


「おぇぇぇぇ!」

起床すると共に、平井は口からゲロを噴き出す。

「うっわすいません!」

誰もいない自分の部屋で、平井は叫ぶ。

平井の叫び声に反応して、ラヴァが部屋にくる。

「うわくせっ!…………澪さん、起きた?」

「ごめんなさい…吐きました」

「ぎゃははははっは!盛大だな!すげぇくせえ」

「すみません……」

「どう?今からまたいけそう?」

「はい!体調は万全です!」

ラヴァは平井のゲロをチラリと見る。

「………そう!じゃまた地下室で。」

そう言ってラヴァは行った。

平井は久しぶりに歩いたので、少し足がガクガクする。変身の影響で足首以外が再生していたので、一応歩けるようにはなっていたのだ。


少し時間がかかったが、平井は地下室に着いた。

「よ」

ラヴァが平井に手を振る。

「こんにちは…………!?」

「スゴいでしょ。これ君がやったんだ」

そこには血が混じり紫色になった巨大な肉が地下室を埋め尽くしていた。

「そうですね……」

それからの修行は簡単だった。ラヴァがいうには、一度やった化け物の戦闘機能は体が覚えているらしい。

肉を膨らませられるのも慣れたし、煙で武器を作るのも慣れた。


これで、テロに行く準備は完璧らしい。

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