第24話盲目的思考
「澪なんかすごいんだね」
「うん…なんかすごいっぽいね」
平井と壱ノ瀬は、正直化け物についてあまり理解していなかった。
「あともう一人会って欲しい人がいるんだけどいい?」
「うん」
「私の知り合いで、さっき話したこの会社の上の人なんだけど」
「へー」
「新井紬って人なんだけど、コネで上の座についててさ」
「え?………」
平井は少し頭を下げる。
「どうしたの?」
「いや、えー……同姓同名かもしんないけど、昔ちょっとあって」
「知り合いなの?髪の毛くるくるしてる人だよ」
「知り合い……だね」
平井はさらに頭を下げる。
「聞いてもいい?なんかあったの?」
壱ノ瀬は平井に質問する。
「うん…昔付き合ってたの」
「!?。えー!私もだけど結構歳の差あるよね。いつぐらいの時?」
「2年前くらい……。でも付き合ってたっつっても、私がマセてただけでよくわかってなかったんだけどね」
平井は付き合っていたという表現をしたことに恥ずかしくなってきた。
「会うの気まずい?」
「ちょっと」
「ヤな別れ方したの?」
「いや、新井くん麻薬やっててさ。そっから疎遠になってった…」
壱ノ瀬は一瞬言葉に詰まる。
「そっ……かー。それはヤダね」
「うん、世間的にね」
「そうねー…」
「新井くん、今元気?」
「元気だよ!元気…そっか、アイツ麻薬やってたのか。初耳」
「ごめん。あんま人に言う話じゃないよね」
「そうだねー…あはは」
壱ノ瀬は首の後ろを掻いた後、車椅子に手を戻す。
EP24 盲目的思考
「うし、ついたぜ」
平井達は小さな扉の前に来る。
壱ノ瀬は扉を3回ノックする。
「新井、いる?」
壱ノ瀬が問うと、扉の向こうで声がする。
「茅?いるよ」
久しぶりに聞いた新井の声に、平井は肩に力が入る。
壱ノ瀬が扉を開け、部屋の中に入る。
正方形の部屋の中には観葉植物が四隅に置いてあり、大きな机、大きな椅子、大きな本棚が並べられていた。大きな本棚ににはあまり本が入っていなく、隙間に埃が溜まっていた。
壁一面を覆い尽くす大きな窓をからさす光を前に、一人の男が立っていた。
「新井くん…久しぶり……。」
2年前と何も変わっていない新井をみて、平井は冷や汗をかく。
「久しぶり」
新井は小さく返事をする。
「新井くん、こんなとこ勤めてたんだね」
「うん。親父がトップだからね。置かれてるだけだよ」
「そっか…」
「ごめん、こんな形で再開したくなかった。これからちょっと利用させてもらうことになっちゃう」
「利用?」
「うん。言葉悪いけど、今澪は人質なんだ。いつか政府の人間がここに来るから、澪を渡す代わりに金をもらう……。っていう会社の計画なんだ。」
「あぁ…」
平井は、藤田の言った『少し匿う』という言葉の意味を理解する。
「あのさ……政府がバケモンの力使ってテロ起こすって聞いた?」
「政府が?」
平井は耳を疑った。
「うん。バケモンの肉を食わせた人工の化け物を量産させて、他国にテロ仕掛けるってやつ」
「人を殺すの?」
「そう。俺もよくわかってないけど。」
「………………」
平井は苦笑いする。
「戦うのってつらい?」
新井が平井に問う。
「えっ?うん。血で服とか汚れるし、怪我すると痛いし」
「あー。でもちょっと楽しいでしょ。テレビの中継とかみてたけど、ずっと笑ってたし」
「それは変身したからだよ…」
「そっか性格も変わるのか。澪はテロとかってどんなイメージ?」
「あんま行きたくないね。銃で撃たれたりして怪我するかも」
「そうなんだ。藤田にも聞いたんだけどおんなじような答えだったな…」
「あと、私は正直怖がられるのが嫌なんだと思う。公の場で化け物じゃなく人を殺すわけだから、英雄にはなれないし。今もだけど人として見られてないって言うか……人じゃないんだけど」
「そっか。世間の目もあるのか。ごめん、勝手に変身すりゃいいって思ってた」
「ううん。大丈夫」
その後は思い出話が弾み、いつのまにか窓の外は暗くなっていた。もう遅いからと言って、新井は平井達を部屋の外に出した。
車椅子を押しながら壱ノ瀬が一言つぶやいた。
「なんか、全然違う。」
「何が?」
「態度だよ態度!あいつ澪に嫌われないように会話してるように聞こえる。あいつノンデリだから普通に地雷踏んでたけど。まだ好きなんじゃね?澪のこと」
「え……?なんかそれは嫌だな。もしそうでもすぐ離れ離れになっちゃうし」
「くくくくく。ロマンチックだねぇ〜。可愛い」
「……………」
「でもそうだよな。離れ離れっていうか、澪が人殺したら色々と見る目が変わっちゃうかもな。覚悟してても。」
「……そうだね。」
平井と壱ノ瀬は苦笑した。
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