第23話イレギュラー

平井が目を覚ますと、見たことのない風呂場の浴槽に浸かっていた。

下半身は膝までしかなく、刀で斬られたような断面になっている。断面を触ってみても、不思議と痛みはない。


コンコン…

風呂場のドアがノックされる。

「ぁうわっ」

平井は肩を跳ね上がらせ、浴槽に溜まった水の音を鳴らした。

それに反応し、ドアの向こうにいる人間は声を漏らす。

「ん…起きてる?」

聞き覚えのある声だった。

平井は浴室の壁についた手すりをつたい、身体をドアに背を向ける。


ガチャッ

風呂場のドアが開く。

「澪起きた?ん…?足が生えてる?」

平井は顔をドアの方に向ける。

「茅………?」

「久しぶり!」

ドアの前には壱ノ瀬が立っていた。

「久しぶり…」

平井はぎこちなく返事をする。


EP23 イレギュラー


平井は身体を拭き服を着替えた後、車椅子に乗せられる。

「うし、おっけー」

壱ノ瀬はそういうと、平井の乗った車椅子を押し始める。

「茅……私覚えてないんだけど、ここどこ?」

「どこから説明すりゃいいかな…。まず、藤田から会社のことは聞いた?」

「藤田を雇ってるっていうやつ?」

「そうそう。それがここ。カード会社……を表の顔にしてるヤクザ?みたいな会社らしいんだけど私もよくわからん」

「ヤクザ?。政府とは関係ないの?」

「うん。よくわからんけど、ちっさい組織だよ」

「そっか……。あ、そうだ。私多分この前死んだと思うんだけど大丈夫だった?」

「あはは。なんかオモロいねその言い方。澪が上半身だけにされた後、この会社に藤田と一緒に保護されたんだよ。完全に犯罪なんだけどね」

「えぇ……。茅はなんでそんなとこにいるの?」

「化け物に興味があるってのと、知り合いがこの会社の上の方の人だから」

「そう……。」

「とりあえず、澪に会いたいって言ってる人?がいるからちょっと会ってくれない?」

「え?うん…」

平井と壱ノ瀬は、小さな部屋のドアの前に来た。


「ここだ」

そういうと壱ノ瀬は、ドアを3回ノックする。

「ラヴァさん、澪つれて来ましたー」

ドアの向こうから声が聞こえた。

「ありがとう茅さん。入ってきて」

壱ノ瀬はドアを開け、車椅子を押しながら部屋に入る。


「おはよう、澪さん。ラヴァです」

そこにはソファに座る、ツインテールの少女がいた。

「えっと、こんにちは。平井です」

平井は軽く頭を下げる。

「座って」

壱ノ瀬はラヴァと机を挟んだ向かい側のソファに座り、その横に車椅子を停める。

ラヴァは平井の瞳を見つめる。

「澪さん。私、あのデカい化け物から生まれてきたんだ」

「?」

平井は困惑する。デカい化け物から生まれた?私や藤田みたいに作られた化け物じゃなくて?見た目はただの人間じゃないか…。

「信じてもらえるかわからないけど…、君が殺した化け物達の兄弟なんだ」

「あぁ……………」

平井は反射的にラヴァから視線を外す。

「まぁ気にしなくていいよ。で、一つ聞きたいんだけど君は私のママに何も聞かされずに化け物になったんだよね?」

「はい」

「変な料理とか出されなかった?普通化け物の力を得るのはママの肉を食べなきゃいけないんだ」

「料理…?」

「他の家ではでないモノ…みたいな」

「わかんないですね」

「そっか……。君の不死身はどうも化け物からしてもイレギュラー過ぎるというか、ママも予想外っぽいんだよね。もしかしたら別の生物かもしれんし…」

「…………」

「ごめん、ありがとう。また調べてみる」

「はい……。ありがとうございました」

ラヴァと平井の会話が終わると、壱ノ瀬は車椅子を部屋の外に移動させる。

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