第21話立場
藤田は繭を解き、避難所である小学校の体育館に入る。
大量の人の気配を感じ、あからさまに藤田の顔色が悪くなる。
「走るぞ」
藤田は平井の背中を押し、入り口から距離を取る。
EP21 立場
避難所の中は大量のインスタントハウスが綺麗に並べてあり、小さな住宅街のようになっている。
「来るか?」
藤田は後ろを振り返る。
入り口には小さく人間の形となったイダの姿が見える。
……。ここで変身するつもりだろうか。それとも銃か何かを持っていて戦う気だろうか。変身しないなら勝てる。だが変身したらこの距離では勝てない。ヤツが政府側で作られた人間ならこんなに人間がいる状態であんな大きな変身はできないはずだが。
イダの携帯に通話画面が表示される。
『東岡』「イダ!?何やってるの!そこでは変身できないから、他の…
通話が終了される。
イダは藤田の方を睨む。それに気づき、藤田は目を逸らす。
イダが口を開く。
「まず、俺は藤田を殺せと命令された。被害が最小限にとも言われた。最小限……という言葉の定義はあやふやだ。明確に何人か示されていない。個人の自由だ。価値観だ。」
藤田と平井はゆっくり後退りする。
それを見てイダは微笑む。
「逃げたって無駄だ。俺は今、善意を利用した機械だからな」
「はぁ…そういうのが一番嫌いだ。一番殺したい」
藤田は自身と平井を触手で包み、体育館の出口へ向かう。
「無駄だ」
イダは変身する。膨らんだ肉は体育館の壁を破壊し、藤田の触手を掴む。
藤田は慌てて他の触手で掴まれた触手を切断し、瞬時に再生させる。
「藤田承、そして平井澪。お前達は力の使い方がなってない。この身体はまだ出来ることがいっぱいあるんだ」
そういうとイダは口から水色の煙を広範囲に撒き散らす。煙はみるみる液体、固体と変化していき、体育館内に雹が降った。辺りに鳴り響く悲鳴が心地よい。
「かーらのぉ!ッ」
イダはまた口から煙を吐き、半径2メートルほどの玉の形にして固める。それをそのまま勢いよく藤田めがけて投げつける。
藤田が玉を触手で割ると、中から水色の液体が飛び出す。液体は藤田の身体を覆い、そのまま固体に変化し体の自由を奪った。
「…………」
藤田の額に汗が滴る。
イダは余裕の表情を浮かべ藤田に話しかける。
「殺人鬼ってのは人間にしか脅威が及ばないんだな。弱い世界のみで地位を確立する……。オタサーの姫みたいだな」
「…………………」
「よっしゃ、殺すぞ」
そう言うとイダは巨大な腕で藤田の繭を包み、グッと力を入れる。
自分で作った触手の壁が、どんどん迫ってくる。
殺意
「カアアアイアザネュアアアッッッグチアアァ!!!!!」
藤田の繭を突き破り、平井が雄叫びを上げながらイダの腕を駆け上る。
肘あたりまで到着すると一気に跳躍し、頭の上に乗る。
「ヴォオェッッエレ……ぇ…エエエエエ!」
平井はイダの鼻腔めがけて嘔吐する。
「ふごっ!!」
イダは藤田をつかんでいる手に力を入れる。
「ゲェヘヘヘヘ…」
平井はイダの右上の角を両手で掴む。
「死ねッえ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
平井はイダの角をぶち抜き、遠くに投げる。
「ヴォオェッッエレヴォオェッッエレヴォオェッッエレ!!」
平井は角のあった場所にまた嘔吐する。
イダは高速で頭を振り、平井を地面に落とす。その反動で手の力が緩み、藤田も地面に落ちる。
「はぁ〜…くっそしみるわ。いでえ。」
イダの角が抜き取られた場所からは薄く水色の煙が流れている。
平井はイダが悶えているうちに藤田を抱えて体育館を出る。藤田の身体には自身の血が染み付いており、どこから出血しているかわからなくなっていた。
「藤田、生きてる?」
平井は走りながら藤田の生存を確認するが、藤田の喉は鳴らなかった。
代わりに藤田は目を開き、眼球を回転させて生存を伝える。
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