第20話疲労

「…………」

平井が固められて4日目。彼女はひどい生理的欲求に襲われていた。


ガチャッ


ドアが開いた。差し込む光に、平井は目を瞑る。


「……………」

おそるおそる目を開けると、男が一人立っていた。

「藤田……?」

汚い靴音を鳴らしながら、藤田が平井の元に近寄る。

藤田は触手の先から水の煙を噴出させ、平井の入った水槽を包む。すると水槽とコンクリートは粉々に砕け、平井は尻餅をついた。

藤田は黙ったまま平井の手足を拘束している縄を解いた。

「ありがとう……」

「うん。早速だけど、ちょっと来て」

「………嫌だ。ヤダ」

平井は体勢を治し、コンクリートの破片を手に取る。

「?。いや、俺もうお前の敵じゃないから。殺さない」

「……………そうじゃない…」


「!ンんんんーーーッッッッッッ!!」

平井は発狂しながらコンクリートの破片を額に何度もぶつける。汗、唾液、鼻水が滝のように溢れる。

「え!?」

藤田は狼狽える。

「うあああぁ……」

平井はコンクリートの粒を遠くに投げまくった後、頭を掻きむしる。

「ちょっと待て。一回話を聞け」

藤田は潔癖症という訳ではないが、自傷行為ほど無駄なものはないと思っていた。拘束されていたストレスを発散しているのだろうか。

平井はスンと発狂をやめ、俯いたまま行動を停止する。

「聞いたところで何になんだ…」

「まず、お前は不死身の可能性が高い。で、その能力は俺等にはなくてお前だけの力らしい」

「……………」

「一般的な予想として、お前は一生政府に実験体として利用される。……だから俺はお前を助けに来た」

「はぁ?…だから助かんねぇだろ!?どう考えても永遠に逃げるなんて」

平井は藤田に怒鳴る。

「しかもなんでお前なんだよ……」

「俺を今雇ってる会社が……助けるというか、少しでも匿う」

平井は藤田の雇っているという言葉に少し引っかかった。

「?もう良いよ……従う」

「ありがとう。じゃあついてきてくれ」

「でも待って。ちょっとトイレ」

平井は急いでトイレに向かった。


数分後、平井と藤田はそのまま施設を出た。


と思った。


EP20 疲労


携帯に通話画面が表示される。

『イダ』と書かれたアイコンが光る。

「施設から藤田と見られる人間が出てきました。平井澪も一緒です。やっぱ協力関係だったんだ。東岡さん、俺もう行って良いですか?」

『東岡』のアイコンが光る。

「うん、そうね。平井澪は殺さないで、捕獲して。あとあなたの力はかなり周りに被害が出るから慎重に」

『イダ』「はい、わかりました」

通話が切れる。


平井と藤田がイダの姿を目で確認した瞬間、イダの体が変化する。

「ヂャァァカァァッッパーンドゴォ」

平井と藤田の前に、茶色の毛が体中に生えた犬のような化け物が現れた。顔の目に当たる部位には4本のツノが生えており、右下のツノにのみ太いリング型のピアスがついている。口や耳、鼻は横に伸びていて、他は成人男性のような形になっている。体は大きく、約5メートルほどはありそうだ。

「わぁ!?」

「クッソなんだこいつ…」

藤田は触手を伸ばして自身と平井の体を包み、繭のようになる。またそこから触手を何本か生やして移動する。

平井が残念そうに呟く。

「もう私の他に私とおんなじようなのが作られてるのか…」

「お前バケモンと戦いたいのか?」

「違うけど……」

「だったら良いでしょ。とりあえず逃げるぞ」

「うん」


藤田がビルからビルへ触手を伸ばし化け物から距離を取る。触手繭の中はものすごく揺れ、平井はひどい動揺病を発症した。

イダは耳の中に指を突っ込み、耳くそのようなものを飛ばしながら藤田を追いかける。


藤田は考える。ここら辺は化け物母が出現した周りだからこの化け物は暴れていられるが、もう少し進んだ住宅街なら避難がまだ完了していないはずだし追って来られないんじゃないんだろうか。

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