第18話不信審振

平井が目を覚ますと、溶けて吐瀉物のようになった死体が足元に落ちていた。

平井は治っている左腕を見て呟く。

「……私、マジで人間じゃないんだな」


EP18 不信審振


平井がぼーっとして立ち尽くしていると、3台の車に取り囲まれる。

「………」

一台の車から一人警察のような人は出てくる。

「平井、澪さんですか」

「あ、はい」

警察は元に戻った平井の声に少し安堵する。

「先程の記憶はありますか?あの力は本意ですか?」

「?記憶はないです。銃で撃たれて、死んで、ここにいました」

「ありがとうございます。ちょっと車のってもらえますか」

「はい」


車が止まったのは、平井の現住居がある実験施設だった。

「どうぞ」

平井は車から降ろされ、施設の中の部屋に案内された。部屋には窓も電気もなく、昼間でもドアの隙間から漏れる光が一直線に差し込んだ。


部屋に入った瞬間、警察は平井の手足を縛り上げた。

「うわ!」

そして大きめの水槽にピッタリ体を収められ、首から上だけを出して灰色の液体を流し込まれる。

「え?ッうそっ?」

体の隙間に液体が入り込み、全身を押さえつける。

平井が困惑していると、警察が平井の髪を持ち上げ、後頭部を何発か殴りつける。

平井は気絶した。


……………………………。


空は暗くなっていた。

「殺してやるっ!殺す!殺す!……………死んだ!か……」

藤田承は新たに殺した死体を川に投げ捨て、唾を吐きかける。

「……………」

藤田は少し歩き、近くのコンビニに入る。

「いらっしゃいませー」

「ぃらっしゃいませぇー」

店内には二人の店員以外誰もおらず、店内の音楽が響き渡る。

「…………」

藤田はメロンパンを三つ手に取り、レジの前に立つ。

店員はバーコードを読み取りながら淡々と頭の中に染み込んだ台本を読み始める。

「ありがとうございます。袋ご利用になさいますか?」

藤田は首を振る。

「ありがとうございます。お支払い方法の選択お願いします」

「…………」

藤田は触手で店員の頭を貫く。

「?!………!?!?」

もう一人の店員が困惑している間に、頭を叩き潰す。

藤田はパンを手に取り、コンビニを出る。ドアの音が鳴っても、店員の声は鳴らない。


藤田は少し歩き、『和泉』と書かれた表札の家に入る。

藤田はドアに鍵をかけ、玄関に座る。メロンパンを袋から取り出し、頬張る。


藤田は現状に違和感を覚えていた。

おかしい。俺はこんなに無防備に殺しを続けているのに、当たり前に日常を続けていられるのはおかしい。本当に平井以外に対策がないのだろうか。

平井にやられた傷が痛む。それを感じるだけで、簡単に殺意が芽生える。


ピンポーン


インターホンが鳴る。

「………………」

藤田はメロンパン二つを手に持ち、ドアから遠ざかる。


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン


藤田は舌打ちをする。

何か対策が出来上がったのだろうか。

ドアの向こうで声が鳴る。

「藤田さん、そこにいるのはわかってます。私は敵じゃないです。信じてください」

「………………」

藤田は唾を飲む。

カシュッという音がなり、水色の煙がドアを包む。

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