第15話音
平井は考える。藤田が止まらない限り上下の差は埋められない。腕も一本ないから壁も登れない。だがこのまま行けば桑原さんの車の近くに着く。体力の温存も兼ねて、そこで立て直そう。応援とかも呼んでもらおう。
平井は桑原の前にきて立ち止まる。
怯えから殺意が消え、変身が解ける。
「すっ…すいません桑原さん…」
桑原が車から出る。
「平井さん?どうしたの?」
「あのっ…いだくて。今のままじゃ追いつけなくて、車で」
腕の痛みが一気に襲いかかる。
うずくまる平井を、桑原は見下している。
「うん」
「それでっ……」
全身から汗が吹き出し、瞼に力が入る。
「応援とか呼んでください。車で近くまで送ってください」
「あー……腕ね。」
EP15 音
桑原は運転手に目を向ける。だが運転手は桑原が何故目を向けたのかわかっていなかった。
「平井さん…」
桑原はポケットの中をゴソゴソといじる。
「本当に平井さん?なんかパスワードとか作ればよかったね。」
「……………」
「えーと…いや、やっぱいいや……」
平井は必死に呼吸をする。息を吐くたび、腕に痛みがはしる。
「………………」
「……………」
不気味に静かな桑原に不安を感じ、平井は上を見上げる。
「は……?」
そこには平井に銃口を向けた桑原が立っていた。
「は…あ……?」
「ちょっちょっと…まってください………?」
「くわばらさん……」
平井は後退りしようとする。
人のいない住宅街で、銃声が響く。
「………………」
桑原は平井の死体を持ち上げ、車のドアを開ける。
運転手は困惑する。
「ちょっと…桑原さん、それ車にのせるんですか?死体の臭いとか染み付いたらヤなんですけど。」
桑原は運転手を無視し、平井の死を報告する。
桑原は電話を切る。
「臭いはすいません。急がないと」
「はい……………」
「……………」
「………………」
「弾丸は一発だったんですよ」
沈黙を断ち切り、桑原は運転手に話しかける。
「弾丸は一発だったんです」
「……?」
「一回失敗したら、辞めようと思ったんです」
「…………」
「んー、なんか……」
「……………」
再び車内に沈黙が流れ、車のエンジンが声を上げる。
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