第14話ダメージ
EP14 ダメージ
車内で桑原と運転手が会話する。
「あのベンチに座っている男です」
運転手が指を刺した先に猫背の男が一人座っている。
桑原が運転手に問いかける。
「この距離なら銃で狙えるんじゃないですか?」
「藤田の触手はものすごい素早さで動きます。おそらく銃よりも」
「なるほど…じゃ、平井さん気をつけて」
「はい」
平井は車のドアを開け、藤田に近づく。
『今の人間は疑心暗鬼だから、人を殺してる平井さんが死刑になりかねない』
「………………」
平井が藤田の近くに来ると、藤田はゆっくりと立ち上がる。
「………………」
「…………」
藤田はため息を吐く。
ごスッ
私の左腕が吹き飛ぶ。
「えっああっぅぅ」
「…………………ミスった…」
藤田が走り出す。
「あっああああででででああだぃい…はぁ、はぁ、はぁぁたいいううたいたい……いゔぃいいん」
心の中で何回も叫んだ後、やっと声になる。でも好都合だ。こんだけの痛みと衝撃があれば、変身できる。
殺意
「ァアアァアァッァアアァアァ‼︎‼︎‼︎」
変身した後でも、腕は生えてこない。
走る藤田に平井が飛びかかる。
「うわあ」
藤田は背中から6本の触手を生やし、蜘蛛のようにして素早く動く。
「ァアアァアァッァアアァアァァアアァアァッァアアァアァァアアァアァッァアアァアァ‼︎‼︎‼︎!‼︎!ぶち殺す!」
「…………うーん…」
藤田は2本の触手で私を攻撃し、4本の触手で体を持ち上げ動く。動くスピードは平井の方が速いが、攻撃が見えず近づくことが出来ない。何より手がないのがきつい
右手がなくなったら攻撃方法がかなり減る。減っても良いのは右足だ。
平井は高くジャンプし、右でかかと落としをする。
バチンという音と共に藤田の触手が一瞬止まる。その瞬間右手で一本、口と歯で一本触手を止める。
太い肉の塊が、口の中で激しく動く。右足はまだちぎれ
ていない。
「ンンンンンンンンーーーーっゥゥゥ!」
「…くっ汚い…………」
平井の四つの目から、水色の煙が噴き出す。
口に入った触手を噛みちぎる。それと同時に、左足で藤田の身体を蹴る。
手応えは少ない。だがダメージはあったはずだ。
まだ右足がある。思考を殺意で埋めたおかげで痛みは緩和できる。つまりまだ犠牲にできる。
平井は右手で掴んだ触手をギュッと持ち、藤田を上に引っ張り上げる。
「…………」
藤田は前足に使っていた触手を平井の腹に突き刺す。
「グ」
平井は藤田を振り回して触手を引き抜き、住宅街の壁に藤田を叩きつける。が、藤田は触手で受ける。
「ーーーッンンン!!藤田ぁあああアアアアアアッッッッッッ‼︎!!!‼︎」
藤田は壁を背中に触手を生やしたので、前がガラ空きだった。そこに平井は蹴りを入れた。
「うわっあ!」
藤田の口から血液が溢れる。
藤田は体制を直すと他の触手で平井の掴んでいる触手を切り落とす。
そして残りの触手で走り去る。
「待テ!」
平井は右手に持った触手の端を投げ捨て、腹をおさえながら藤田を追いかける。
まだ足はある。
藤田は触手の先を尖らせ、壁に刺してアパートを登る。
平井は下で追いかける。
藤田は平井を殺そうとは考えていない。平井がいなくなると、これから産まれる化け物の相手をする人間がいなくなるかもしれないからだ。自分は相手をしたくない。さっきの平井の一撃でそう決意した。
しかし相手はこちらを殺そうとしている。スピードも相手が上だ。なのでこれからの戦いに支障が出ない、自分も逃げ切れる程度のダメージを狙う。
いや、もしくは自分勝手ではあるが『彼』と『肉』の存在をヤツらに打ち明けるか…?。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます