第13話逕庭
数日前
平井と同じように変身できる、人間の形をした生物が発見された。
名前は『イダ』。姓はわからず、本名なのかも怪しい。彼はごく一部の人間に正体を明かした後、政府に保護、隔離された。
前髪がとても長く、右目は完全に隠れている。頭頂部やうなじから伸びるアホ毛の散らかり具合から、清潔感のなさが伺える。
桑原の前のガラス戸の向こうに、彼は現れる。
「……こんにちは。初めまして。君はイダくんであってる?」
イダは一度頷く。
「はい。イダです。よろしくおねがいします」
「俺、桑原。よろしく」
イダはもう一度頷く。
「聞いていると思いますが、僕はあの化け物の力を使えます。」
「うん」
「それで、頼みたいことがあるんです。」
彼はこう続ける。
謎の少年に肉を食べさせられ、力に目覚めたこと。
怒りっぽい感情を抱くと肉が変形すること。
その肉を政府に渡しに来たこと。
「この肉を人に食べさせれば、人間を化け物にできます」
「…………」
「いま戦っている一人の少女に化け物退治は荷が重いと思うので、これを使って化け物を増やすことをオススメします」
「うん、ありがとう…。俺は良いと思うけど安全性や確定性が少ないから。」
桑原は、そんなことわかっているはずなのに何故自分の身を世間に晒そうとするのだろうと思った。世間から見れば平井には助けたくなるのだろうか。
イダは残念そうに言う。
「そうですか…」
「うん…それにその少女がいま…ちょっとまずいことになってるから君が戦うことになるかもしれないよ」
「それは大丈夫です。あの少女は何も知らない状態で化け物になりましたが僕は故意ですので。」
「?」
「僕は人の力になりたいんです。死者を減らしたいんです」
「?………。??」
「必要になったら呼んでください」
「うん……ん?」
桑原はイダの言っていることがよくわからなかった。
EP13 逕庭
数日後
藤田の件がニュースで報じられた。
男が桑原に言った。
「藤田承と平井澪が協力しているような素振りを見せたら殺せ」
桑原は一瞬戸惑った。
「?…はい」
イダが渡した肉の化け物化実験は実行され、成功したようだ。
桑原は怪訝な顔をして部屋を出て行った。
桑原の同僚は言った。
「桑原にこういうことを命じるのはまずいですよ。僕結構付き合い長いんでわかるんですけどあいつ一般常識というか、倫理観というかが少しズレてるんですよ。殺しますよ。桑原は」
桑原に殺しを任せた上司は言った。
「ああ。そうしてもらった方がこちらとしては良い。未知に対して我々の疑心暗鬼もいいとこかもしれないが、彼女の犠牲は仕方ない」
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