第11話杜若江

非日常のために日常がある。生きやすい道を見つけるために。


EP11 杜若江


「酒ももう飽きたな……」

一人暮らしには大きい部屋で、杜若(トジャク)江(コウ)は寂しく呟いた。

スーツの汚れを気にせず着たまま食事し、焦茶色の髪もボサボサだ。


仕事がある日は休みのことを考えて、休みの日は仕事のことを考える。そんな日常から抜け出すために、いつも自分のための非日常を探している。ただ、ずっと受け身だ。時間がないから。


金曜日の20時。明日は仕事がないので、23時まで起きていられる。酒を買って残りの寿命を忘れようとするが、明日には酔いが覚める。時間がなくなれば幸せだと、減点方式な思いを馳せる。


数ヶ月後


金曜日の20時。杜若は自宅に着く。

「ただいま……わーおかえりおかえり。……ありがとう。ただいま………………はぁ……」

杜若はソファに倒れ込む。

今よりもっと金持ちになったら一生寝ていられる。羨ましい。


カタンッ


何かが落ちる音がした。

「………………」

杜若はソファから顔を上げる。非日常の予感がした。

「やっと見つけたぞ。今出てきたら警察に行かないでいてやる。さっさと出てこい」

少しかすれた声でそう言った。


タンッ タンッ

「………………」

杜若の下側のまぶたがピクピク動く。

「すいません…本当」

出てきたのは年端もいっていなそうな少女だった。

「面白…………!」

杜若は呟いた。

少女は土下座する。

「すいません。すいません…えっと」

「いや、いいんだ。警察には行かない。だけどこれ以上近づかないで」

「はい……」

少女は正座した。

杜若はまぶたの震えが止まらず、目をぱちぱちさせる。

「えっと、君名前は?何でここに」

「名前はラヴァです。ここには逃げてきたんです」

「ラヴァ…外人?犯罪者とか」

「いや!違います。兄に殺されそうになって」

「兄に?何それ」

杜若は目を輝かせた。

「私どこか体に欠陥があるらしくて。だからです」

「欠陥?障害があるの?どんな」

「はい。うーん、どんな…」

「……………」

「えー………………」

言いたくなさそうだったが、好奇心が抑えられず杜若はただ黙っていた。

「…………………」


「ごめんなさい。実は私、人間じゃないんです」

「…………………」

「福岡県のでかい化け物……の娘なんです」

「……………はぁ……」

「でも大丈夫です!私の障害はその人間っぽい化け物ってことなので!人間成分?が強くて。力の使い方もよくわからなくて」

なんか面白い、と杜若は思った。

「じゃあ…化け物である証拠は出せないってこと?」

「一応ちょっとは出せます」

ラヴァは人差し指をぴんと立てた。

するとみるみる長くなっていき、天井にコン音を立て当たった。

「」

杜若口を開いた。

「人差し指しかできないですけど…」

「えーすごい。すご…」

ラヴァは人差し指を元に戻した。

「くくくほほ…」

杜若は笑った。

「…………………」

「………………………」

「すげー面白い。」

「ありがとうございます…でも大丈夫です、殺さんので…」

「あぁ……」

「この家からも出ていきますので」

ラヴァはゆっくり立ち上がった。


まだ消化してない非日常が、家から出て行こうとしている。杜若はそれにひどく恐怖した。

「待って!君家とかある?なければいいよ。ここ住みかにしても。寝床にだけでも」

「…………ホントですか」

「うん。バケモンのこともっと知りたい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る