47、温泉


 バスに乗ると、ふわっと温泉の匂いがした。

 そして「温泉の匂いとは?」と首を傾げる。

 硫黄、もしくは花の香り。以前教えてもらった気がする。

「温泉宿の香りがして好きなんですよ」

 と嬉しそうに自身がつけている香水の説明をしていた人。確かに、温泉宿のロビーの、あの何とも言えぬ安らぎの匂いがした。

 バスの中の匂いはそちらに近い。

 名前を教えてもらったはずだ、その香りの正体の。

 フランキンセンス? シダーウッド? 違うなんだろう。

『温泉 いい匂い』で検索しても、硫黄についてのページばかりが目につく。

 違う、分からないけど違う。確かに植物系の香りで、シンプルな名前だった。

 ──ネロリ!

 そうだネロリ! 何だか知らないけれど、温泉宿の匂いの元!

「ネロリ」

 思い出せた喜びを実感するために、バスの騒音に紛れてその名を口に出す。

 例えばそうして、ロマンチックに香りが強まるだとかそういうことはない。けれど、不思議と温泉に入った後の幸福感のようなものは味わえるのだ。


 

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