35、感覚



 あまりに美味しいカレーを食べてしまったせいで、その前後の記憶が全くなくなってしまった。

 油断していた。でも仕方ない。だって本当に美味しかったものだから。

 カレーについていた見慣れない付け合わせの漬物や薬味についての説明も、全くこれっぽっちも覚えていない。ひたすらに美味しかった。

 ただ、店のポスターのモデルのお姉さんがものすごく美しかったことだけは覚えている。

 凄まじい美味の奔流に耐えられるのは、やはり凄まじい美しさなのだろうか。

 あの美味しさの中で記憶を保つには、あそこまで美しくないといけないのかと思うと、なかなかの高次元での感覚対決を文字通り味わわせられてしまった。

 感覚は超人的な威力を発揮したにも関わらず、それを浴びる私のなんと凡で平和なこと。

 記憶がなくなりこそすれ、そのカレーが凄まじく、とんでもなく美味しかったことを覚えていられれば、こちらとしては全く文句などない。

 この五感とは末長く仲良くしていきたいものだ。



 

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