33、しおり


 古本屋で買った本に、その本のタイトルが記載されたしおりが挟まっていました。

 たまに本屋に行くと、新刊の栞を無料配布していますが、きっとこのしおりも、この本が発売された時傍らで無料配布されていた物でしょう。


 ある程度本を読み進め、一息つき、何かしおりになるもの──例えば新刊の案内ペーパーなどでも良いのです──を探していると、同タイトルの記されたそれが挟まっている。

 それは大袈裟に言えばこの本のために誂えられたガジェットのようで、そのフィットしないわけのない収まり具合に少なからず興奮してしまいます。

 本には、本ごとのしおりが欲しくなるのです。


 例えば、素晴らしく気に入った本を読み終えたとして。

 その時使っていたしおりは、なんでもない、いつのだかわからないカレンダーが記載されたもの。あるいは電車の時刻表など、だったのに。

 読み終えた後、その本にふさわしいしおりが欲しくなってしまうのです。

 読み終えたのだから、もうしおりは必要ないのに。いつか何かの拍子で読み返した時の自分のために、その本にぴったりのしおりを一番最初のページに挟んで置きたくなってしまうのです。

 そうして、ネットあるいは文具屋の大海を泳いでいるうちに、ぴったりのしおりがなんなのか、まるで分からなくなってしまうのです。


 だから今回の場合は非常にラッキーです。ぴったりなしおりを挟んでくれた前の持ち主さん。ありがとうございます。



 

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