28、とっかかり



 ブックオフにて、旅行のガイドブックのコーナーを眺めて次の旅先のとっかかりを探していた時のこと。

 日光のガイドブックが目に留まりまして。

 日光はそういえば、子供の頃に一度だけ行ったことがあったなあと思い出しました。子供の頃、家族とです。

 車で行ったのですが、大層渋滞で恐ろしく退屈だったのを覚えています。

 正直それしか覚えておらず、両親に対して薄ら罪悪感を抱きつつそのガイドブックを手に取りました。

 なんと、しおりのように挟んであったのは、おそらく前の持ち主の新幹線の切符と、名所の入場券。

 あらまあこういうのは珍しい。と私は本の内容より、その人物が辿った旅路を推測することにやや夢中になりました。

 そうしているうちに、今まで車の渋滞しか覚えていなかった日光の思い出が、まるで補完されていくようにじわじわと甦っていきます。

 厳密にいえば、甦っている気がしているだけなのでしょう。

 けれど、私は満足でした。満足しすぎて、日光はまた次の機会にとガイドブックを棚に戻し、別の行き先を求めたほどです。

 さて、どこへ行ったものか。旅行のとっかかりは、ツルツルしていて油断するとすぐ手が滑ってしまうのです。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る