25、新品の服


 今日はこの服を着よう、と袖を通して、一度納得したはずなのに「やっぱりやめよう」と思うことがある。

 気温だったり気分だったり、今後起こり得るシチュエーションを想像して却下するわけで、大抵はそのことを後悔することはない。


 新品の服もしくは気に入った服を着るのは、私にとってそれなりの勇気が必要な行為だ。

 理由は単純に、汚したくない、汚さない自信がない、それだけなのだけど、それだけで結構な二の足を踏まされた。

 滅多にいかない旅行に、素敵な服を着て晴々とした気持ちで旅立ちたいと思い、あれを着ようこれを着ようとリストアップする。

 そうして数日寝て起きて、旅行の日程が近づくにつれ、内容の具体性が増してくる。

 そこで「あそこ行くなら動きやすい方がいい」「あれをやるなら汚れてもいいものがいい」となって、用意していたよそ行きの新品の服は、候補からどんどんと外れていく。

 しまいに、旅の服は途中で破れても大丈夫なような、そんなアクティビティ向きのものにシフトチェンジしていく。

 そうして旅の当日、もう少しいい服を着たかったな、と思わないこともない。

 けれど、一日歩き疲れてボロボロになってホテルへ戻る時、ああやっぱり、新品の服を下さなくて良かった、と思う。


 これは凡そあるあるなことだろう。けれど、そうではない人の、旅行できていく服の話も聞いてみたいものだ。

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