『耳なし芳一II(ツー)』

@Ag4O4

第1話

『耳なし芳一II(ツー)』


芳一には弟がいた。

芳二(ほうじ)である。

芳一と同じく平家の亡霊に取り憑かれた芳二を守る為

和尚は耳にも経文を書き込んだ。


怨霊の

「お経が書かれている体の部分は透明に映って視認できない」という性質を

今回もまた存分に活かそうという作戦である。


しかし同じく前回の反省を活かした亡霊が

経文の文字と文字の隙間の皮膚肉を持ち帰ってしまい

芳二はより悲惨な傷を全身に負ってしまった



『かといって全身を黒く塗ったら

経文の体裁を為せなくなる

それではただの黒い法師じゃな』



そして三度目の機会がおとずれる

芳二の弟、芳三(ホーザン)である


みたび襲来した亡霊は法師をみつけることができなかった。

今回、和尚は経文を法師の全身に隙間なく書き込んだ。

メンガーのスポンジ状に書き込んだ。


メンガーのスポンジ図形は自己相似なフラクタル図形の一種であり

無限の面積をもつ。

一文字一文字をスポンジ図形の頂点にみたて全身に描写された経文は無限大の面積という概念防御を獲得した。


亡霊に表面積が存在する以上

この経文を施された芳三を認識突破することは不可能である。


でもなんか

亡霊、対策バッチリだってよ。


亡霊の額に揺らぐ三角巾にトライフォースのような切れ込みが再帰的に発生し

外へ外へと展開しだしたのである。


シェルピンスキーの三角形(ギャスケット)だった。

シェルピンスキーの三角形とは

もう細かい説明はめんどいのでググってください

結論からいうと面積がゼロの図形である。


亡霊はその身に抱える平家の呪い

その全存在を三角巾を基点にシェルピンスキーのギャスケットとして展開投射し面積のない幽霊という概念にその身を翻した。


面積の無い目が爛と光る

亡霊のおぞましい視線が

無限の面積の経文をすり抜けて

法師を補足した。


亡霊が法師に急接近する。

凄まじい移動速度。

法師は咄嗟に反応できない。


無限の面積の経文に守られている法師。

しかし、いま亡霊の面積はゼロであった

無限とゼロが衝突したところで

接触する面積は存在せず

亡霊は経文の向こう側

法師の内へ━━内へ━━、



━━━━。


朝になって急いで様子を見に来た和尚は

真っ赤な人の形が座していることに気がついた。


法師の内側に侵入したゼロの亡霊は力任せに法師を連れ去ろうとしたが


無限の面積に全身を覆われた法師を

経文の檻から取り出すことができなかったのだ。


スポンジ経文の内側でめちゃくちゃに撹拌された法師は赤黒い人の形となり鎮座していた。


そして四度目の機会が訪れる

芳四(ほうし)だ。

「法師で芳四、ホーシッシなんつってな」

「つか残機無限とか

そういう有名なのもうあるから」


芳二、芳三、芳四

それらは弟という名目の

和尚の用意した芳一の複製体だった。

無限級数的複製体だった。

和尚が亡霊に完勝するまで無限湧きするチート外法だったのだ。


「で、次の作戦とかあんの?」

『平家には源氏をぶつけんだよ』


法師と和尚の戦いは、これからだ。

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