番外編 ルーヤの過去 2

まずは言葉を覚えてもらおうとしたけど中々上手くいかない。


私は村長の娘だから、家庭教師が付いていた。だけど人に教えるのって案外難しいし、お姉ちゃんの所に黒鉛や書く物を持っていくのに苦労した。


お姉ちゃんは物覚えが悪くて、少しだけイライラして突き放してしまった時もあった。

取り敢えず教えても仕方が無いから、服を作ろうと思ってこっそり布と針と糸を持ってきた。


まだ仕立てについては習いたてだったから、悪戦苦闘しながら頑張った。

お姉ちゃんが横から不思議そうに見てくる。


お姉ちゃん「ル゙ーヤ?」

針に指差ししてくる


私「どうしたの?これは、針だよ?」

何を当たり前の事を聞くんだろうと思った。


お姉ちゃん「ハリ゙」

床に何か書こうとする


私「えっ!?」

ハリと床に書いてある!なんで…?


前は全然書けなかったのに

私「なんで?なんで書けたのお姉ちゃん?」


お姉ちゃん「ハリ゙!」

私が驚いているのを感じ取ったのか、針を連呼する。


私「あっ…」

何となく分かった、お姉ちゃんは知らないんだ。


私が普段何気なく食べている林檎や、いつも座っている椅子でさえも…


言葉と物が結び付かない、それなのに私は…やれブドウと書け、リンゴと書けと…


アからンの文字を教えただけじゃ、お姉ちゃんは分からない。そもそも、文字というのは話せないと効果が低い。


だって、"こんにちは"の意味やどんな時に使うかも知らないのに、形だけのこんにちはだけ知っても意味が無い。


苦虫を噛み潰したような気持ちがした。

私「ごめん…」

お姉ちゃん「ル゙ーヤ?」

私「ごめんね…」

お姉ちゃん「ル゙ーヤ、ル゙ーヤ」


この服を頑張って作ろう、お姉ちゃんの傷が少しでも覆いかぶさるように。


次の日、外に連れて行こうとしたけど、酷く嫌がった。

私「大丈夫だよお姉ちゃん。」

手を繋いで、他の村人に見られないように急いで森に入る。


私「お姉ちゃん、これは木」

お姉ちゃん「ギ」

私「キ」

お姉ちゃん「ギ」


少しずつでいい、一緒に前に進もう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

読み書きはまだ未熟だけど、カタコトながら喋れるようになった。


そういえばお姉ちゃんは何歳なんだろう?

私「お姉ちゃん歳は分かる?」

お姉ちゃん「分か…無い」

私「らが抜けてるよ」

お姉ちゃん「ヴッ…」


名簿表を見れば分かるかな?



私「お父さ〜ん」

お父さん「ん?何だい、ルーヤ」

私「名簿表見たい!」

お父さん「ルーヤ、前にも言ったが村長は継がなくていい。それよりギルドの職員とか…」

私「私お父さんの娘だから、しっかり名前を覚えたいの…」


お父さん「フッ…全く…可愛い娘だよ」

お父さんが書斎に入り、名簿表を出してくる


私「ありがとう、お父さん!」

部屋に入り、名簿表を開く。

村長一家は一番最初に書いてある、お父さん…お母さん…私…


私「えっ…」

お姉ちゃんの名前が無い…幾ら探しても無い!


得体の知れない、ドロドロとした恐怖が芽生える。

私「そっ、そうだ」

戸籍じゃなくて、村全体の人数を確認しよう。

全体数の偽装はこの国では極刑だ、お父さん達もそんなリスクは犯したくないだろう。


戸籍数と全体数の差異を調べるため一人一人照らし合わせる。

そもそも村人の数があまり多くないのですぐ分かった。


私「私が生まれる3年前…」

だとすると後3年でお姉ちゃんは成人になる。

丁度その日は家庭教師の人の契約満了日だ、私が村を変だと気付かせてくれた私の恩師だ。

それに村人からは敬遠され、不当な扱いを受けてるし契約更新する事は無いだろう。


あの人達なら信頼出来る、やっぱりお姉ちゃんはこの村に居ない方がいい。

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