番外編 マーヤの過去 2
私もだいぶ大きくなった、少しずつ大人になってきたのだろう。
唯一、親から貰ったボロ布で出来た服がキツくなってきた。
というか今までよく入っていたと思う。
ボロ布を脱ぎ捨て、裸になる。
布団代わりの布をかぶり、見飽きた天井を見る。
ガタガタっと音がし、扉が開けられる。
ご飯かなと思い、そのまま放置していた。
長い髪が私にかかる、8歳位の女の子が私を見ている。
一目で、分かった。
この子は私の妹だ。
?「お姉さんだぁれ?悪魔って本当?」
何を言っているか分からない、只彼女はただ真っ直ぐに私の目を見る。
誰も合わせてくれなかったこの瞳に
?「お姉さん名前はなんて言うの?」
首を傾げ、訝しげに私を見てくる。
何を言えばいいか、何をすればいいか分からない。親や村人の記憶がフラッシュバックする。
女の子が手をあげる、叩かれると思って身を守ろうとしたら、ただ頭をかいただけだった。
それを見た女の子は、私に手を伸ばした。頭を撫でてくれた。
その手は温かかった。
枯れた大地が、水で満たされる感じがした。
私「ァ゙〜」
何年も一言も発さなかったせいだ、カスカスで小さな声だ。
彼女が、優しく問いかけてくる。
?「お姉さんもしかして、言葉が分からないの?」
私「ゥ゙、ァ゙」
?「ル〜ヤ〜ご飯よ〜!」
?「は〜い!、お姉さんまた来るね」
立ち上がって、歩いて出ていってしまう。
もしかして、嫌われた?
そう思ったのは私だけだった
?「読み書き教えてあげる!」
今までが嘘のように、楽しかった。
隣に誰かいてくれる、それだけで胸の辺りがポカポカした。
こっそり布を持ってきて、一緒に私の新しい服を作ってくれた。手を引き私を外に連れ出してくれた。
人は温かい事を知った、言葉を知った、名前を知った、知識を得た。
私に妹が出来た。
ルーヤが、ほぼ毎日訪ねてくるようになって時間は目まぐるしく動くようになった。
春が巡り、夏が来る、秋になり、冬が訪れる。
だいぶ私も言葉を流暢に喋れるようになった、最初は敬語で話していたが、歳月を重ねるにつれて、姉妹のように話す事が出来るようになった。
ルーヤ「お姉ちゃんそういえば名前はあるの?」
だいぶルーヤも大人びてきた、もう12歳ぐらいだろうか?
私「無い」
ルーヤ「ふ〜ん、じゃあ私が付けてあげる」
ルーヤ「今から貴女はマーヤね」
えっ?
マーヤ「そんなあっさりと?全く…酷い妹だ…」
ルーヤ「前から考えたに決まってるでしょ!失礼ね」
私に名前が出来た、マーヤ、マーヤと心の中で反芻する。
ルーヤ「よし!名前も決まった事だし、明日いいものあげる」
マーヤ「何で急に?」
ルーヤ「明日はお姉ちゃんが16歳の成人になる日よ、多分ね…」
その日は寝付けなかった、こんなに明日が楽しみになる日々がくるとは、ルーヤと出会う前の私は思わなかった。
結局寝付けないまま夜が明けた、忍び足で近づく気配がした。
ルーヤ「お姉ちゃん」
扉を開けて、ルーヤが中に入ってくる。
声がでなかった。
マーヤ「う、うし」
ルーヤ「牛?」
ルーヤが私の視線の先を見る
ルーヤ「ッッ!…お父さん!」
目が血走り、血管が飛び出す程怒っている。
お父さん?「ルーヤァァ゙ァ゙ァ!」
実の娘に平手打ちをする、そのままルーヤは倒れ私の足元に転がって来た。
マーヤ「止めて!」
慌ててルーヤの前に行く
マーヤ「止めて…下さい…お願い…します」
怖い
お父さん?「んだよその態度!悪魔憑きがしゃしゃり出てくるんじゃねぇ゙!」
頭を蹴飛ばされ、壁に叩き付けられる。
目がグワグワと揺らぎ、立つことが出来ない。
大丈夫ルーヤ、お姉ちゃんが守ってあげるからね。
悪魔(ちち)に手を伸ばす、のばした手は空を切る。
そこから意識がない。
牢屋の様な所で目が覚めた
マーヤ「グッ…」
痛い、体中のあちこちに痣がある。
あの後、ルーヤは大丈夫だったかな…
誰か歩いて来た
マーヤ「ルーヤ!」
ほっぺたにガーゼを付けたルーヤが、私を見てくる。
マーヤ「大丈夫?ケガは?」
ルーヤ「…本当にお姉ちゃんって気持ち悪い」
マーヤ「えっ…」
ルーヤ「前々からあなたが嫌いだったの、何その変な目?それにその髪…汚いし、不潔でジメっぽい。」
マーヤ「ルーヤ…」
ルーヤ「本当は…大嫌いだったのよ…!」
ルーヤ「悪魔の目を持つくせに…一生私の…私の前に…出てこないで!」
そう言い、私に何かを投げ付けてきた。
早足に、歩いて行く。ある程度離れたら、草むらから人が出てきて、ルーヤの頭を撫でる。
私が侮辱され、蔑まれる理由が分かった。
この目のせいなんだ
マーヤ「ㇵ…アハ…アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
この目という理由だけで、私はこんな思いをしないといけなかったんだ
マーヤ「ハハハハハハ…ㇵ…ㇵ」
ありがとうルーヤ、わたしの為に泣いてくれて。
フラフラと歩きながら、石を手に取る。
石で目を潰そうとした
でも出来なかった
だってルーヤがこの目を綺麗だと言ってくれたから。
足元に落ちてる袋の中身を見る。
悪魔の目から、何かが流れてるのに気付いた。
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その夜、誰か牢屋にやって来た。
マーヤ「誰…」
?「しー」
剣士の見た目をした男の人が話しかけ、盗賊の様な格好をした女の人が鍵を開けようとしている。
剣士?「君の妹の家庭教師だよ、妹から頼まれたんだ」
マーヤ「ルーヤが?」
剣士?「そう、今日で僕達は契約満了でね。この歪な村から早くに出たいんだ」
盗賊?「ほんっと最悪よ、指摘すればすぐ契約契約って…身近でこんな事もやってたなんて…」
剣士?「僕達なら君を連れ出せる、君はどうしたい?」
マーヤ「行き…たいです」
剣士?「よし、じゃあ行こう」
背中におぶわれ、村を後にする。
ルーヤが泣きながら投げつけた、袋の中には2つの物があった。
名前が刻まれた、手作りの櫛と花
ルーヤとこっそり出かけた時、教えて貰った事がある。
花の名前は、ミヤコワスレ。
花言葉は…
ー別れ
コソコソ話
この冒険者は本編時間ではもう引退しています、それとあの後マーヤを養子にして、娘として育てたそうです。
今でも里帰りで度々会っているらしいです。
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