第60話 ペア
「司、これ買いに行く。早く」
「え、今から?」
冬休みがあけてから最初の土曜日、朝から千羽が出かける気満々の格好をして俺を急かしていた。出かけるのはいいけど、前日に言ってほしいよね。
千羽が俺に見せつけているスマホには、ペアネックレスという文字と画像が表示されていた。美姫はペアリングとかって言っていたけど、千羽はネックレスがいいのかな。
「ん、今すぐ。これなら学校でもつけれる」
「あー、そういうことか」
「いつでもお揃い。行こ?」
「わ、分かったからちょっと待って」
ウチの学校では特にアクセサリーが駄目とは明言はされていない。さすがに指輪とかあからさまなのは注意されるけど、ネックレスなら普通につけている女子とかいるらしいしね。
まぁ値段も高くないものだし、これなら......あれ?
「これ、指輪が付いてるの?」
「ん、休みの日は指につける」
なるほど、それならお得?だね。空を飛べる不思議な石とかじゃなくて安心したよ。
しかし指輪とネックレスかぁ......キーケースは普段目につかない物だけど、身につけるアクセサリーってドキドキしちゃう。
「どこのお店の?ネットで買えるのかな?」
「ダメ、待ちきれないから買いに行く」
まぁ見ていれば分かるよ。今も会話しながら俺の手を引っ張っているし。分かったからちょっと待ってってば。
お店の名前を検索してみると、どうやらショッピングモールの中にもあるみたいだ。それでわざわざこれを選んだのかな?
外に出てもなお俺を引っ張る千羽を、転ばないように制止しながら歩く。そんなに急いでもバスの時間は決まっているからね?
「千羽、少し落ち着こう?」
「むぅ......」
「ちゃんと買うから、ね?」
バスに乗っても千羽はソワソワが収まらずに揺れていた。俺の腕に抱きついているから、あまり動かれると柔らかいモノに押し潰されて腕の神経が死んでしまう。
早く着いてくれ......とこんなに願ったのは初めてだ。
「司、見て。いっぱいある」
「そうだね。どれがいいか選ばうか」
考えてみれば、指輪をチェーンに通すだけなら組み合わせはどれでもいいんだよね。
いやしかしジュエリーショップ?って初めて来たけど、いかにも高級そうで緊張するなぁ。
入ってすぐ、チラッと見えてしまった値札にはすごい桁の金額が書いてあって、嫌な汗が背中を伝った。今すぐ帰ろうかと思ったけど、ケースの中には4桁の値札も普通にあって安心した。
「司、どれがいい?」
「うーん、迷うねぇ。ネックレスにもするならシンプルなほうがいいし......」
ネックレスのチェーン自体は単体でも売っているということなので、まずは指輪の方を選ぶんだけどこれがまた難しい。
こういうのをつけた経験など無いし、オシャレのセンスにも自信は無い。 値段もデザインも様々だし、どれがいいんだろうか。
千羽が欲しい物でいいと思うんだけど、当人はケースと俺を交互に見るばかりで決める気はないようだし。
それならここは、値札のところに書いてある人気ランキングで決めようかな。この中から1番シンプルそうな物......。
「千羽、これどう?」
「ん、これにする」
大丈夫?ちゃんと見た?早くつけたくてうずうずしてない?気持ちは分かるけども。
まぁ卒業したら他のを買えばいいだけだしね。......本当にあの金額の物を買えるのかどうか疑問だけど。
店員さんに指のサイズを測ってもらって試着してみたけど、それだけでもドキドキしてしまう。千羽も抑えきれずに頬が緩んでいるのが丸わかりだし。
あとはチェーンなんだけど、千羽は外した指輪を色んな角度から見るのに夢中だ。ということは俺が選ぶしかないよね......。
こっちも色々な種類があるんだなぁ。学校でつけるならなるべく邪魔にならないように細い方がいいかな?
あ、こっちの紐タイプなんていいんじゃないかな。金属じゃないからジャラジャラしないし、オシャレに見える......ような気もする。よし、これにしよう。
「お待たせ。千羽、行こうか」
「ん、指輪どこ?」
「この中だよ。ちょっとあそこの椅子に座ろうか」
お会計を済ませて店を出ても、千羽は指輪のことばかりだ。この紙袋の中に2人の指輪が入っていると思うと、軽い物なのに重く感じてしまう。
椅子に座って紙袋の中から箱を取り出すと、千羽の視線がそれを追っていた。そのまま遊んでみたい気持ちが湧いたけど、あまり焦らすと噛みつかれそうだし早速開けてみよう。
「ほら、ちゃんと入ってるよ」
「ん、つけて?」
箱を開けて指輪を見せてみると、千羽は右手を差し出していた。え、俺がやるの?うっ......そんなに可愛く見つめられたら断れないよ。
いや、ここは男を見せないと。今回は右手だけど、将来は左手の薬指に嵌められるように。いやでも、すごく緊張する......。
黙れ鼓動!......なんか崖の上の山犬みたいな言い方になってしまった。手まで震えそうになるけど、うっかり指輪を落としてしまわないようにしなきゃ。
左手で支えながら、右手でゆっくり優しく指輪を押し込む。よ、よし......なんとかミッションコンプリートだ。よくやった、俺!
顔を上げると、本当に幸せそうに微笑む千羽の顔があった。ああもう!可愛すぎてドキドキが収まらないよ!
「嬉しい。一生大事にする」
「俺も千羽とのお揃いが増えて嬉しいよ。指輪って特別な感じがするしね」
「ん、今度は私がつける番」
終わったと思ったら、千羽がもう1つの指輪をヒョイっと奪った。つける側も緊張したけど、つけてもらうのってなんか気恥ずかしいね。
ニコニコ......というよりニヨニヨ顔?から真剣な顔つきに変わって俺の指に嵌める千羽。嵌め終わってからも千羽は俺の右手をニギニギし続けていて、もうニヤケるのを我慢出来ない......!
なんて油断していたら、頬に柔らかい感触が押し当てられた。ちょ、ここ外なんですけど!?
「ち、千羽......そういうのは帰ってから......ね?」
「むぅ......分かった、帰ったらいっぱいする。写真も撮る」
「そうだね、思い出はちゃんと残しておかないと」
分かってくれたのはいいけど、ほどほどにね?スキンシップは大事だしうれしいけど、過剰になると男子高校生には毒だから。
* * *
『見て、指輪。ネックレスにも出来る』
『うわぁ~いいな~!』
『一生の宝物』
『まだこれから、婚約指輪に結婚指輪に増えていくし大切にしないとね!』
『指輪いっぱい?なら全部つける』
『いやそれはちょっと......』
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