第61話 式


 

 土曜日にペアリングを買ってからというもの、千羽は常にニコニコニヤニヤしながら指輪を見ている。自慢げに俺に見せつけなくても、同じ物つけてるからね?

 やたら密着して俺の頬や首筋にキスしまくるし、俺の彼女の可愛さが留まるところを知らない。


「司、これつけて?」

「あ、うん......ってちょっと千羽!?」

「何?早く」


 学校へ行くのにネックレスを俺につけさせようとするのはいいんだけどさ、なんで制服の襟元をそんなにはだけさせてるの!?

 朝から刺激が強すぎるよ!目に毒だよ!いや朝じゃなければいいってわけでもないけど!

 前からは駄目だ。既に鎖骨が見えかけているし、うっかり胸元を覗き込んでしまったら大事件になる。

 せめて後ろから......と思ったけど、いざつけようとすると躊躇してしまう。だって千羽が後ろ髪を持ち上げているから、綺麗なうなじが無防備に晒されているんだもの。

 クッ......前門の鎖骨、後門の項。俺に逃げ場は無いのか!......なんてやっている場合じゃない。早くしないと遅刻しちゃうね。

 正直、自分でもつけたことないし、人のをつけるなんてのも初めだけど慣れなくちゃ。これから毎日つけることになるかもしれないし。


「——んぁっ」

「あ、ご、ごめん!触っちゃった?」

「......ん、大丈夫」


 指輪を紐に通してあとは金具を留めるだけなんだけど、うっかり首筋に触れてしまったみたいだ。

 にしても千羽って敏感だね?普段はそんな感じしないけど、耳とか項は弱いなんて。髪の毛とかくすぐったくないのかな?他人に触られるから?


「はい、終わったよ」

「ん、ありがと。私も司のつける」

「じゃあお願いするよ」


 やりやすいように膝立ちになっておこう。まぁ俺のをつける分には何も問題なんか......大アリだった。

 正面に立った千羽が俺の首の後ろ側でネックレスをつけようとしている。つまり、抱きしめるような形で。

 その......位置的にね?俺の顔面に千羽のお腹が押し付けられているんだよ。一生懸命やっていて気付いてないのかな?

 制服越しとはいえ、柔らかい感触が伝わってくるしいい匂いだしで頭がおかしくなりそうだよ!


「ん、出来た。司、大好き」


 そしてトドメとばかりに、頬にされる口付け。開いたままの襟元から中身が見えたとかないから。水色だったけどあれはきっと下着じゃない。だから大丈夫だ。

 なんかもう毎日が刺激的なんだけど、俺の心臓さんちゃんと生きてる?いや元気すぎてヤバいな。


「ありがとう。俺も大好きだよ」


 このまま千羽を抱きしめていたいけど、さすがに学校行かなくちゃね。千羽とのスキンシップは帰ってからでも出来るんだし。





「おはよー」

「おはよ」

「お2人さんおはよ〜。んー、なんかすでに甘ったるいにおいが漂ってくるんですけど?」

「き、気の所為じゃない?」

「見て。司とお揃い」


 確かに家で少しイチャついてたとも言えるけど、なんでそれを感じ取れるんだろうか。誤魔化そうとしたけど、千羽がネックレスを制服から取り出して見せつけてしまった。


「へー、ほー、ふーん?ペアネックレスね〜。え、しかもそれ指輪じゃん」

「うわぁ、いいなぁ......」

「ん、私の宝物」


 やっぱり女子ってアクセサリーとか好きだよね。佐藤さんは親戚だかが社長なんだし、いくらでも手に入りそうだけど。ペアアクセサリーが羨ましいのかな?

 あと千羽は宝物と言いつつ俺の腕に抱きつかないでね?宝物って俺自身じゃなくてネックレスのことだよね?

 

「あーあー、朝からお腹いっぱいなんですけど~?」

「ま、また森さんが......」

 

 森さんって低血圧なのかな?もしくは机が大好き?いくらなんでも机を舐めているとは思いたくないけど......。

 まぁデリケートな問題かもしれないし、そっとしておいてあげよう。体調が悪いとかなら佐井さんたちが保健室に連れていくだろうし。

 隣に座る千羽は、自慢し終わってからもネックレスを仕舞うことなくずっと眺めている。一昨日買ってからずっとこんな感じだ。俺にくっつきながら、自分や俺のつけている指輪を眺めたりいじったり。

 こんなに幸せそうな表情を見られるなんて、本当に買って良かったなぁ。守りたい、この笑顔。

 だけど、仕舞う時に襟元を開きつつ俺の方を見てくるのはやめてね?教室の隅だからまだいいけど、無防備すぎるのはよろしくないよ。

 


「司、教科書見せて」

「......自分のあるよね?」

「司のが見やすい」


 俺は課題に必要な分だけ持ち帰っているけど、千羽は机とロッカーの中に置きっぱなしだから忘れたということはない。

 しかも俺の方が見やすいってどういう理屈?ノートならまだ分かるけど、教科書に見やすいとかあるの?まさか落書きだらけとかじゃないよね?

 まぁもう授業は始まってしまったし、おとなしく見せるしかないか......。先生の視線が気になるけど、既に机をくっつけているし今更だよね。うるさく言わない先生で良かったよ。

 ......あの千羽さん?教科書見せてるんだし、ちゃんと授業には参加しようね?なんでノートに俺の名前が書かれているのかな?

 しかもよく見れば、その下には『志位食千羽』という字も見て取れる。どうしよう......嬉しいけど気が早すぎて困惑している自分もいる。というかなんで俺に見えるところで書いちゃうの?ここ、学校だよ?


「司、こっちも見て」


 俺の視線に気が付いた千羽がページを捲るとそこに書かれていたのは『x+y=志位食千羽』という謎の式だった。まさか、俺+千羽ってこと?俺ってxだったの?何かの容疑者だったりしちゃうの?

 というかそれって、式は式でも計算式じゃなくて結婚式だよ......。




   *   *   *



『どうしよう、好きが止まらない』

『お熱くていいわね~ さっさと結婚しちゃいなYO』

『早くしたい。今すぐしたい』

『うん、ごめん 私が悪かったわ......』

『なんで高校生は結婚ダメ?』

『なんでって......まぁ身体的にも経済的にも未熟だし?』

『むぅ......いつでも私の全ては司のものなのに』

『こんなにメロメロにさせるなんて、罪深い男よね......』

 

 

 

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