第59話 席

 


「よーし、お前らー。恒例の席替えだぞー。志位食から順番にクジ引きに来ーい。あ、いつも通り課題忘れたやつは1番前な」


 連休明け恒例の席替えがまた来てしまった......。正直、1番後ろの席だしやりたくないんだけどなぁ。

 『うげっ』みたいな反応をしている元太は1番前の席確定なんだろう。ご愁傷さま。事前に言われてるんだし、嫌ならちゃんとやればいいのに。

 誰からスタートするかは毎回先生の気分次第なんだけど、今回は俺からスタートらしい。指を横に滑らせているからそういう順番で来いということなんだろう。

 さて、我がクラスの生徒は30人。席は縦に5、横に6......狙うは後ろ2列だ。課題を忘れて最前列が確定している2人分を除けば、確率は12/28。

 ねだるな勝ち取れ、さすれば与えられん......!と謎に気合いを込めて箱から紙を1枚引いた。

 恐る恐る開いてみると、書いてあったのは『11』。黒板に書いてある図を確認してみると、窓際の隣、後ろから2番目の席だ。なかなかいい場所を引いたんじゃないかな。

 あとは周りが誰になるかだ。自分の席からあの図が埋まるのを眺めていよう。


「やった、1番後ろゲッツ〜」

「うわ、小島の真後ろかよ〜」


 続けて引いた人達は早くも明暗が分かれたようだ。嫌な理由が前の席だからじゃなくて元太の後ろだからなんだ......。まぁ騒がしくて先生から当てられやすいしね。

 順調に決まっていく......と思ったのだけど、6人目——つまり千羽の番になってピタッと止まってしまった。

 どうしたんだろう?と思ったけど、千羽の視線は黒板のある1点に注がれている。まさか......ね。

 先生の急かす声も耳に入っていないのか、3分ほど静止していた千羽がようやく動き始めた。

 ゆっくりと箱に手を突っ込み、真剣な顔つきでかき混ぜ、勢いよく手を引き抜いた。そこにはたしかに1枚の紙が握られていた。

 壊れ物を扱うかのように慎重に紙を開くと、同時に顔がパァっと輝いて小さくガッツポーズをしているのまで見えてしまった。

 さらにこちらに向かって紙を見せつけているけれど、さすがにこの距離ではどれだけ目を凝らしても見えないよ......。

 とりあえず早く書きなよ......と黒板を指さしてみると、ややムスッとしてからおとなしく黒板を向いた。

 そして千羽の名前が書かれた場所は現在の席の1つ前——つまり俺の隣だった。あ、だからあんなに嬉しそうな表情だったのね。

 書き終わった千羽は、自分の席へは戻らずに駆け足で俺の所へ来た。


「司、隣!隣!」

「あ、うん。分かったから少し落ち着こ?」

「......嬉しくない?」

「いやもちろん嬉しいよ。だけどあんまり騒ぐと1番前の席にされちゃうよ?」

「むぅ......分かった。後でいっぱい話す」


 内心はすっごく嬉しいんだけどね?ただ少し複雑ではある。多少は離れるのにも慣れないとって思ったのに、まさか学校でも隣の席になってしまうとは......。

 まぁ決まってしまったものは仕方ない。約3ヶ月、お隣さんとしても仲良くやっていこう。

 またもムスッとしつつ自分の席に戻った千羽を見送って、黒板に視線を戻してみるとわりと埋まっていた。

 えーと、俺たちの周りは......えっ?これ本当に?窓際のほうを見てみると、千羽がこちらを見ているのに加えて、佐井さんが手を振っていた。


「全員引き終わったなー?さっさと席移動しろー」


 相変わらず気だるげな先生の声を合図に、一斉に席の移動が始まった。それに合わせて俺も荷物を持って窓側へ移動すると、すでに千羽が待ち構えていた。

 

「隣、よろしくね?」

「ん、いっぱいよろしくする」


 なんだか日本語がおかしくなっているけど、まぁ気にしないでおこう。言葉よりも距離感のほうを気にするべきだろう。

 他の生徒は隣が男子同士女子同士であろうと一定の間隔をあけているのに、千羽の机は俺とぴったりくっつけているのだ。


「はぁ~、少しは見せつけられる側の気持ちにもなってほしいもんだけどね~。糖分過多で太りそうだわ」

「あはは......私もかも」


 振り返ってみると、俺の後ろには佐井さんが、千羽の後ろには佐藤さんが座っていた。もはや仕組まれているんじゃないかと思うほどの偶然だけど、これはクジの結果なのだから仕方ない。


「にしても千羽っちは豪運だよね~。ピンポイントでその席当てるなんて、これも愛の力ってやつかな~?」

「ん、当然。司の隣は一生私のもの」


 佐井さんも愛の力だなんて恥ずかしいセリフをよく平気で吐けるよね。ドヤ顔をしている千羽も可愛いし、本当にそんな力があるのかと疑いたくなってしまうよ。

 

「学校でこれって、普段どんな風に過ごしてるのよ」

「普段?ずっと一緒」

「あ、千羽......」

「司はいい匂いだしあったかい。ご飯も美味しい。家族も優しい」


 ヤバいと思って止めようとした時にはもう遅い。千羽の口からはすでに言葉が紡がれていた。


「ねぇ......前から思ってたんだけどさ、2人って一緒に住んでるの?」

「ん、そ——」

「違う違う!ほら、同じアパートで部屋が隣でさ!それで一緒にご飯食べたりしてるってだけで!」

「志位食君慌てすぎじゃない?別に付き合ってるんだし良くない?」


 いや付き合ってるのと一緒に住んでるのって全然違うからね?それに、あまり言いふらして先生の耳に入るのだけは避けたい。


「ね、ねぇ、さっきから森さんが......」

「早速犠牲者が出たか......。森りん、千羽っちの前の席になったのが運の尽きだね。まぁ私らよりはマシだと思うけど」


 犠牲者って酷くない?寝てるだけかもしれないよ?まぁ俺は何もしてないし、千羽が可愛いから仕方ないということにしておこう。


「......森は死んだ」

「死んでないから!神様が死んだ時に言うやつだよそれ!」


 ドロドロに命を吸い取られちゃうよ!ホントにそのシリーズ好きだよね!悲しげな表情をしてるのもポイント高いよ!なんのポイントか知らないけども。

 

「愛ってすごいのね......」

「美央っち、これが普通なんて思っちゃダメよ。千羽っちのこと応援したいけど、毎日テロられるのは勘弁だわ」


 テロだなんて失礼な。どこかでも聞いたような単語だけど、俺たちは普通にしているだけだよ......多分。




   *   *   *

 


『学校楽しい』

『え、1日で何があったの!?』

『司の隣の席』

『あーなる〜 それはウキウキだわ』

『隣は誰にも渡さない』

『まぁイチャつくのもほどほどにね 周りの人達がかわいそうだわ......』

『嫌。いっぱいくっつく』


 


 

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