第58話 教室

 


「おはよー」

「お、司あけおめー!元気してたかー?」

「うん、元太も相変わらずテンション高いね」

「いやー、分かるか?佐井といい感じでよー。クリスマスと初詣、2回もデートしちまったぜ」

「それは良かったね」


 ちなみにその情報は休み中にもメッセージが来ていたから知っている。まぁ千羽が引っ付いていたからテキトーに返しておいたけど。

 その当人である佐井さんの方を見ると、佐藤さんと談笑していたが、こちらを見てニヤニヤしながら手を振っている。

 まぁ千羽が俺の手をしっかり握っているし、仕方ないか。先生に見つからなくて良かったよ。


「おふたりさんあけおめ〜。初日から見せつけてくれるね〜?」

「ん、司は私の」

「あけおめ。まぁ、そういうことです」


 元太が話したそうだったし俺は自分の席にいようかと思ったのだけど、鞄を置いた途端に千羽に引っ張られて連行されてしまった。

 千羽さん、そんなに腕を絡めてアピールしなくていいからね?誰にも取られないから。


「はいはい、末永く爆発してくださいな」

「爆発したら会えないから嫌」

「グフっ......どうしよう、千羽っちが可愛すぎて萌え死ぬ......助けて、美央......」

「わ、私に言われても......」


 女3人寄ればなんとやらと言うけど、なんで俺までここにいるんだろう。すごくいたたまれない気分なんだけど?


「そういえば、佐井さんも元太といい感じなんだって?」

「は?んなことないけど?」

「あれ?でもデートしたって」

「デートってか、何人かでご飯とか初詣行っただけよ?」

「ああ、そういうこと......」


 めっちゃ真顔で返されてしまった。むしろキレ気味まである。元太、ドンマイ。


「あ、チャイム鳴っちゃった。千羽、そろそろ離して?」

「嫌。一緒がいい」

「いやいや、自分の席に戻らないと先生来ちゃうから。怒られたら一緒にいられないよ?」

「......それも嫌」

「帰ったらずっと一緒だから、ね?」


 できる限り優しく言葉をかけると、ようやく解放してくれた。表情は不満げだけども。

 こればかりはどうしようもないよね。付き合っていることはいいとしても、一緒に暮らしているのは完全にアウトだからバレてしまえば終わりだ。

 帰るまでは我慢してもらうしかないね。その代わり、家ではいっぱい愛でておこう。


「朝から甘すぎて吐きそうなんだけど?」

「これが2人の世界というやつなのね......」


 佐井さんと佐藤さんがなにやら言っているけれど、聞いている余裕はない。急いで席に戻ると同時に、前方の扉から先生が入ってきた。危ないところだった......。

 これでひと安心......かと思った俺は甘かった。こんなことで千羽の欲望が抑えられるわけないのだ。

 ホームルーム中もチラチラチラチラと見てくるし、終わった瞬間に俺の席まで駆けてきた。忠犬かな?

 まぁそこまではいいとしても、俺の上に座ろうとするのはやめようね?周りの視線がすごいことになってるから。


「ほら千羽、体育館に行かないと」

「むぅ......」


 さっき帰ったらって言ったのに......あれ?たしかに腕は離してくれたけど、返事はされてないような?


「せっかく出来た友達なんだし、佐井さんたちともお喋りしてきたら?」

「司は私のこと、嫌い?」

「嫌いなわけないよ!大好きだよ!でも学校では——」


 あ、と気付いた時にはもう遅い。教室にいる全員が俺たち2人を見ていた。やってしまった......。


「志位食君って意外と大胆なのね......」「私もあんな風にストレートに言われたーい」という女子の声や、

「クッ......これがリア充と俺たちの差か......」「冬休みの間に大人になりやがって......」という男子の悲しそうな声まで聞こえてきた。まだ大人にはなってないんだけど。

 目の前の千羽は嬉しそうに微笑んでいたけど、そんな声が聞こえた瞬間に再び俺の腕に抱きついて女子の方を見ていた。いや、だから大丈夫だって!俺を狙っているわけじゃないから!


「クソ、龍ヶ崎さんがあんなに美人と知っていたら俺だって......」


 なんて声も聞こえてきたけど、それは違うよ。目つきはアレだったし栄養状態がよろしくなかったけど美人なのは元からだし、なにより中身が可愛いんだから。

 ご飯が美味しいとハムスターみたいに頬張って食べたり、隙あらばくっついてこようとしたり、とにかくお揃いにしたがったり。そんな可愛い千羽を皆より先に知れたというのは幸運だと思う。


「はいはい、そのへんにしといてね〜。あんまり糖分撒き散らすと、ヘタしたら死人が出るよ?千羽っち、私たちにも話聞かせてよ〜。その代わり、志位食君が喜びそうなこと教えてあげるからさ」

「......司が喜ぶ?」

「そ、もっとイチャイチャしたくない?」

「それはしたい。......じゃぁ、少しだけ」


 助かったけど、死人は大袈裟じゃない?あれ、でも何人か机に突っ伏してる......。まぁ朝だしきっと眠いだけだよね。

 それと佐井さん、くれぐれも変なことは吹き込まないようにしてほしい。現状でもおなかいっぱいなほどイチャイチャしていると思うのに、これ以上はさすがに男子高校生的に困るんだよ......。

 俺と離れることにも多少は慣れてもらわないと、今後に支障が出るかもしれないし是非とも女子同士仲良くして欲しいものだ。

 




 


   *   *   *

 

 

『学校なんて滅べばいい』

『急にどした!?』

『司との時間が減る』

『あー、でも学校でしか経験出来ないこともあるよ?』

『例えば?』

『千羽ちゃんたち次3年生だから修学旅行とかあるんじゃない?』

『多分?』

『2人っきりってわけにはいかないかもだけど、一緒に旅行出来るなんて素敵じゃない?』

『したい。修学旅行いつ?』

『いや私に聞かれても……』

 

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