第16話 不審



「はろはろ~ん、連絡来ると思ってたよ~!色々聞きたいから電話しちゃった」

「......やっぱり、ろりえるは小鳥遊たかなしさん」

「ぴんぽーん!ある時は床舐め特攻隊長ろりえる、またある時は頼れる皆のお姉さん。その正体は......眼鏡屋の美人看板娘、小鳥遊たかなし美華みかでーっす!」

「私、龍ヶ崎千羽」

「うんうん、よーく覚えてるよ~。こんな偶然ってあるもんだね~。ってことはレックスはあの時一緒にいた彼氏さんってこと?」

「......彼氏じゃない」

「おっとぉ、こいつぁ失礼。たしかにお互いに名字呼びだったしカップルにしては違和感があったねぇ。でもサンドラ——千羽ちゃんはそうなりたいんじゃないの?」

「......分からない。志井食君は初めての友達。ずっとひとりだった私を助けてくれた」

「ふむふむなるほど~。自分の気持ちがまだ定まってないのかぁ......くぅーっ!尊い!推せる!連絡先交換しといて良かったぁ!過去の私ナイス!」

「でもいっぱいお世話になってるからお礼はしたい」

「むふふ。お姉さんにまっかせなさーい!まずは2人の出会いから教えてもらおっかな~。それから今後のこと考えようよ。好きかどうかは置いといて、もっと仲良くはなりたいでしょ?」

「なりたい。お願いします」

「よーし、それじゃぁ第1回!乙女会議を始めます——!」




   *   *   *



「おはよう、龍ヶ崎さん」

「おはよう、つつつか......疲れてない?」

「うん?大丈夫だよ?」


 朝からどうしたんだろう。別に昨日も今朝もいつも通りで疲れるようなことはしてないんだけどな。


「そういえば昨日はあの後ゲームログインしなかったけどなにかあったの?」

「な、なんでもない!」

「そ、そっか......」


 なんだろう、気に障ることでもあったのかな。まぁ人それぞれ生活があるんだし踏み込みすぎるのも良くないよね。

 他に仲良くなった人がいるかもだし、干渉しすぎて龍ヶ崎さんに嫌われたくないしね。ちょっと一緒に過ごしたからといって勘違いは良くない。


「あの、つつつか......使えそう?新武器」

「うん?あー、今回のはあまり回復職ヒーラー向けじゃないんだよね。ハリーとかなら上手く使えそうだけど」

「そう......なんだ」


 今度は急にゲームの話だ。機嫌が悪いわけじゃないのかな?龍ヶ崎さんが分からない!とりあえず今晩は龍ヶ崎さんのお気に入りのハンバーグにしておこう。

 しかし今日の龍ヶ崎さんはどうにも変だ。学校に着いてからも妙にソワソワしているし、気になって龍ヶ崎さんの方を見るとすごい勢いで顔を逸らされる。首グリンってなったけど大丈夫?痛くない?

 ていうかもしかしてこっち見てた?いやいや気の所為だよね。自意識過剰は怪我の元だから気を付けないと。

 だけどそう考えると逆に気になってしまう。よし、今度は気づかれないように眼だけを動かして......ううん、なんとか見える?

 やっぱり龍ヶ崎さんはこっちを見て......口を動かしている?でも口の形までは見えないから何を言っているのかまでは分からない。

 自然に、ごく自然な動きで顔を向けてみると、またも首をグリンと背けてしまった。こうなったら仕方ない。


「——龍ヶ崎さん、さっきこっち見てた?」

「み、見たない」


 え、なんて?食堂なら周りに人いないしと思って聞いてみたんだけど、どっちか分からない答えをいただきました。見た?見てない?満たない?


「龍ヶ崎さん、何か言いたいことがあるならちゃんと言ってほしい。その、ちゃんと受け止めて悪いところがあるなら直すから」

 

 このまま挙動不審なレアヶ崎さんを見るのもいいけど、やっぱりいつもの龍ヶ崎さんのほうがいいな。だから何か文句があるならしっかり受け止めて反省しよう。


「......名前」


 そっかーまさかの名前かー。それってキャラ名?本名?さすがに本名は変えられないからなー。キャラ名がダサいってくらいならまだ変えるのも吝かでは——


「名前、呼びたい」

「ほへ?」

「呼んでも、いい?つ、司君って」

「——っ!もちろんだよ!好きなだけ呼んで!」

 

 良かったぁぁぁ。名前が嫌とか言われたらどうしようかと思ったよ。名前呼びたくて朝からずっと挙動不審だったってこと?可愛いが過ぎる!


「ありがとう、司君」


どうしよう、お昼ご飯を食べるとこなのにお腹......というか胸がいっぱいだ。名前を呼ばれるだけでこんなに嬉しくなることあるんだなぁ。


「......私も呼んで?」

「りゅ......ち、千羽さん」

「さん、ダメ」

「ぐっ......ち、千羽」

「よし」


 さん付けでも恥ずかしいのにまさかの呼び捨て要求とは......。しかし千羽って名前まで可愛いなんて。まるでチワワじゃないか。うっかり呼んでしまわないように気をつけなくちゃ。


「そうだ、それならりゅ......千羽も俺のこと呼び捨てで呼んでよ」

「そ、それはちょっと......」

「だって不公平じゃない?呼んでくれないなら俺も千羽さんって呼ぶね」

「ズルい、司」

「千羽に言われたくはないよ」


 これはヤバいね。人の目があるのにニヤけてしまいそうで堪えるのが大変だ。

 よし、今夜のハンバーグにはチーズも入れてしまおう。今日は記念日だからね!豪勢にいこう!

 

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