第15話 通話



 龍ヶ崎さんに拒否されてしまった元太はあれ以来、近寄ることすら避けるようになってしまった。他のクラスメイトも様子を伺ってはいるが、話しかける気配はない。

 うーん......睨むことは無くなったから誰かしら話しかけてくるんじゃないかと思ったのに、これでは俺以外と関わりを持たないままになってしまう。


「ねぇ龍ヶ崎さん、明日は自分から皆に挨拶してみない?」

「......いらない。皆、私を避けてた」

「きっと皆もどう話しかけたらいいか迷ってるだけだよ。ね、まずは挨拶だけでもいいから」

「......志位食君は、私がそうしたほうが嬉しい?」


 うん?なんでここで俺が出てくるの?龍ヶ崎さんがクラスに溶け込めるようにって話をしてるんだけど。

 まぁ龍ヶ崎さんが俺と話す時間が減るのは少し寂しい気もするけど、晩ご飯は一緒に食べるんだし(多分)、ゲーム内でも話せるし(きっと)。

 なによりもっと色んな人と話して表情豊かな龍ヶ崎さんを見てみたい。


「もちろん嬉しいよ。もっと色々な龍ヶ崎さんを見たいしね」

「いろんな......私?」


 でも挨拶するだけでも龍ヶ崎さんにとってはハードル高いかな?帰ったらゲーム三昧だもんね。......そうだ、ゲームだ!その手があるじゃないか!


「龍ヶ崎さん!ギルドの人達と通話してみない?」

「ほぇ?通話?」

「そう、通話!それなら相手の顔は見えないし少しは話しやすくない?それで慣れればクラスの人たちとも普通に話せると思うんだ」


 俺自身は通話経験はある。同世代のハリー、あとはC.P.、ろりえるの3人とはたまに通話する仲だ。

 女性陣2人がやかましくてそこにハリーがツッコミを入れるのがだいたいのパターンだけど。俺はほとんど聞いてるだけのことが多い。

 正直、戦闘中などはチャットを打っている余裕がない場合がほとんどなので、通話しながらの方が助かるのだ。床舐め組は戦闘中だろうとチャットうるさいけども。


「志位食君が言うなら、やる」

「よっし、早速......誰がいいかな?まずはハリーあたり?」

「志位食君以外の男は、嫌」


 あれ?なんで男に嫌悪感抱いてるの?元太が逃げたから?そうなるとC.P.かろりえるなんだけど……。


「今INしてるのはろりえるか......」


 レックス:ろりえる今時間ある?

 ☨ろりえる☨:あるよ〜どったの〜?

 レックス:ちょっとサンドラの通話の練習相手になってほしくて

 ☨ろりえる☨:え、サンドラが通話!?いいよいいよ!いつ!?今!?!!?


 ゲーム内で個人チャットを送ってみると、秒で返事が来た。すごい食いつきだ。

 まぁサンドラといえば今まで謎に包まれてたから仕方ないか。チャットでもおとなしくて、ろりえるたちみたいにはしゃぐこともない。

 俺だってサンドラは落ち着いた大人か、外た国人かな?くらいに思ってたし。まさか同級生であの龍ヶ崎さんだとは思いもよらなかったけど。


 レックス:とりあえず部屋立てるねー

 ☨ろりえる☨:りょ!


『DChord』を立ち上げてグループ通話用の部屋を立てる。簡単にグループも作れるし、ミュートしておけば聞き専も可能だからすごく便利だよね。


「はろはろーん!聞こえる―?」

「聞こえるよー。今日も元気だねー」

「あったぼうよ!元気と現金は大事だぞぅ!」


 たしかにキャッシュレスに頼りすぎていると非常時に対応出来ないという話は聞くけども。俺は高校生だし現金派だ——って今はそんな話じゃない。


「ちょっと待ってね。サンドラは今準備してるから......」

「はよサンドラを出さんかー!」

「クレーマーやめて」


 龍ヶ崎さんは俺の予備のイヤホンを接続してアプリを立ち上げている最中だ。ゲームもスマホでやってるからいちいち操作が大変そうだなぁ。

 やや経ってから、ピロンという音と共に部屋にサンドラの文字が追加された。


「サンドラー!聞こえる~!?ろりえるだよ~!」

「......聞こえる」

「おお、サンドラの声だぁ!ん-......でもどっかで聞いたことあるような......落ち着いた雰囲気だけどまだ若い?まさかサンドラも高校生だったり?」

「そう。し......レックスと一緒」

「こらこら、あまりリアルは詮索しないように」


 龍ヶ崎さんサンドラも今、志井食君って言いかけてない?慣れてないからって危なすぎるよ。


「めんごめんごてへぺろ~」

「言い方が古臭いよ」

「ああん!?......ん?2人ってさ、もしかして今一緒にいたりする?レックスが喋るとサンドラの名前まで反応するんだけど」


 しまった、そこまで考えていなかった。このアプリは誰が喋っているか分かりやすいように、喋っている人の名前が光る仕様なのだ。

 龍ヶ崎さんがつけているマイク付きイヤホンが俺の声も拾ってしまっているのだろう。龍ヶ崎さんの声は小さいから俺のマイクまでは届いていないのかな。


「そこはあまり触れないでもらえると——」

「一緒にいる」

「ちょっとサンドラ!?」


 せっかく誤魔化そうとしたのになんで速攻でバラしちゃってるの!?


「まぁまぁいいじゃな~い。ハリーとSSだって似たようなもんだし。それにしてもなるほどね~。ふ~~~~~~ん」

「なにその意味ありげな反応」

「もしかしてろりえるは......」

「おやサンドラ、君も気づいてしまったようだね。だけどその先はまだsecretだよ~。後で2人でお話しようね~」


 え?え?女同士で何か通じ合っているの?何に気付いちゃったの?教えて!気になるよ!


「俺に教えてもらえたりは......」

「ノンノン、そいつぁ出来ない相談だぜとっつぁん。いや~楽しみが増えたというか大きくなったなぁ~。2人とも、応援してるからね!」

「誰がとっつぁんだ」


 いきなり応援とか意味分からないし、いったいなんなんだろう。しかもろりえるは俺のツッコミを無視して通話を切ってしまった。本当に自由人だなぁ。


「......私、帰る」

「んぇ?あ、うん......おやすみ?」

「おやすみ」


 そして龍ヶ崎さんも隣の部屋へと帰ってしまった。いつもはもう少しいるのに、どうしたんだろう。機嫌を損ねたという感じではなさそうだし、むしろ満足そう?

 結局その日はそれ以降、ろりえるもサンドラもゲームにログインしてこなかった。龍ヶ崎さんからメッセージも来ないし、なんだかモヤっとするような感じだ。



 

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