第14話 反応


「志位食君は眼鏡、かけないの?」

「うん、俺のは度が入ってないし、ゲームする時用だから」

「そっか......」


 ああ、龍ヶ崎さんが朝から悲しそうな顔をしている......。でも、2人揃っていきなり眼鏡をかけ始めたら何を言われるか分からない。

 既に龍ヶ崎さんの舎弟とか噂はされているんだけどさ。

 しかもお揃いの眼鏡だよ?せめて違うデザインだったなら、たまたまタイミングが被っただけと言い訳出来なくもないけど。

 というか、龍ヶ崎さんがそんなにお揃いを喜んでくれているなんて嬉しすぎる。ついニヤケちゃいそうだよ。


「家ではちゃんとかけてゲームするからさ。さ、入って入って......元太おはよー」

「おう、おは——」


 あれ?挨拶しただけなのに元太がフリーズしてしまった。いや元太だけじゃなくてクラス全員かな?

 まさか俺にもついに時間停止能力が!?どどどうしよう、とりあえず授業中に居眠りし放題だ!

 とまぁおバカな妄想は置いといて。皆の視線は俺じゃなくて後ろの龍ヶ崎さんに向けられている。まぁ当然だよね。

 ここ最近は多少マシになったけど、それでも俺達が登校してくると静まってしまう。

 そんな龍ヶ崎さんに明確な変化が現れたのだから注目も集まるだろう。


「ね、龍ヶ崎さんの眼鏡、似合ってると思わない?」

「え?............あ、おう。似合ってるます」


 なんだろう、今の変な間は。しかも日本語もおかしいし。


「おい司、ちょっと待て」

「おわっ」


 鞄を置いてから龍ヶ崎さんの席へ向かおうとしたら、元太に肩を組まれて阻止されてしまった。急にされると首が締まりそうになるじゃないか。


「いったいどういうことだよ」

「何が?」

「あれが本当にあの龍ヶ崎さんか?いつもの、なんというか......怖い雰囲気無いぞ?」

「だから言ったでしょ?目が悪いから相手を認識するのに凝視しちゃうだけだって。今は眼鏡があるから普通に見えるんだよ」

「眼鏡をかけただけでこうまで変わるものか?周りを見てみろよ。俺だけじゃねぇ、他の奴らも皆戸惑ってるぞ」

「うん?別にいつもと変わらなくない?ほら、元太も龍ヶ崎さんとお喋りしに行こうよ」


 たしかにいつもは逸らされている視線がこっちに向いているような気もするけども。だからといって戸惑う理由が分からない。

 まぁ今の龍ヶ崎さんと話せば誤解だってことも分かるはずだよね。


「龍ヶ崎さん、俺の友達の中島元太だよ。今なら顔分かるよね?一緒にお話ししてもいいかな?」

「......この人、逃げるから嫌」

 

 ありゃ、拒否されてしまった。ちゃんと顔は覚えていたみたいだけど、悪い覚え方されてるし。

 あ、元太が風に吹かれるように飛んでいっちゃった......。自分からは話しかけないけど、拒否されるのはショックだったのかな?


「龍ヶ崎さん、元太が逃げちゃったのは勘違いしてたからだよ。もう逃げることは無いと思うから仲良くしない?」

「......志井食君がいるからいい」

「——っ!?」


 思わず変な声が出そうになっちゃった。堪えた自分を褒めてあげたい。

 俺がいるからいいってどういうこと?せっかく眼鏡かけて怖い雰囲気も消えただろうし、もっと皆と交流していければって思ったんだけど。

 駄目だ、頑張ってくれ俺の表情筋。ここで踏ん張らなきゃ教室でにやけるなんて醜態を晒してしまう!

 こっそり教室を見渡してみるけど、幸いにも誰にも聞かれていないみたい。龍ヶ崎さんの声が大きくなくて良かったよ。

 

「でもさ、その......皆でお喋りするの憧れたりしない?」


 俺の見間違いじゃなければ、龍ヶ崎さんは談笑するクラスメイトを見て怖がられていたはずだ。だからまずは俺の友達でもある元太から慣れてもらおうと思ったんだけど......。


「志井食君がいる。一緒にお喋りする」

「あ、うん。それはもちろん喜んでするけど」

 

 ああやっぱり可愛いなぁ。そんな上目遣いっぽく見られると思わず撫でたくなってしまうよ。

 ......じゃなくて。それって俺がいれば他の人とお喋りしなくてもいいってこと?いやいや勘違いしちゃダメだ。だってあんなに見てたんだから羨ましさは消えないでしょ。

 まぁ俺は龍ヶ崎さんと話せて嬉しいけどね?もっと龍ヶ崎さんのことを知りたいし、ゲームのことも話したいし。

 龍ヶ崎さんが望むなら、その期待を裏切ることなく友達としての職務を全うしようじゃないか。


 

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