第11話 眼鏡



 嗚呼、なんていい朝なのだろう。まるで世界が俺を祝福しているみたいだ。

 無理もないね、だって——今日は僕の初デートなのだから。まぁ眼鏡買いに行くだけなんだけど。


「お、おはよう......」


 訪ねてきた龍ヶ崎さんは薄い上着にジーンズといったシンプルな格好だった。そういえば、ご飯を食べに来る時もシンプルな服が多かったな。

 いつもは認識するために凝視してくるけど今は俯きがちだし、もしかして緊張してるのかな?大丈夫だよ、俺のほうが緊張してるから。


「今日も可愛いなぁ......(おはよう、今日は楽しみだね)」

「......かかか!?」

「え?......あ!違っ......いや違くないけど違うから!」


 やば、緊張しすぎて思ってることが口に出てしまったみたい。龍ヶ崎さんが赤面して余計に可愛くなってしまった。

 代わりに俺の心臓がバックンバックンと煩くなってしまったけど。鎮まれ、鎮まりたまへ!我が心臓よ!デートはこれからだぞ!


「と、とりあえず行こっか」

「志位食君、右手と右足が一緒」


 うわ、余計に恥ずかしい。でもただでさえ緊張してるのにまた可愛いなんて言っちゃったんだから仕方ないよ。

 まぁまだ頬に赤みを残しつつも少し笑っているようにも見えるからヨシとしよう。


「龍ヶ崎さんはどこのブランドの眼鏡がいいとかある?」

「ぶらんど?」

「特にないなら1番近くの眼鏡屋さんでいいかな?」

「志位食君に任せる」


 任されても俺も眼鏡については全く知らないんだけどね。とりあえずお店まで行ってみよう。

 調べてみると、幸いにも歩いて行ける距離にあったのでそこにしよう。気に入るのが無ければ他へ行けばいいのだし。





「——ふおおっ。眼鏡!志位食君、眼鏡がたくさんある!」

「龍ヶ崎さん落ち着いて。眼鏡屋さんだから眼鏡がたくさんあるのは当たり前だよ」


 何故か急にテンション上がってもはや別人になってるよ......。壊すのが怖いだけで実は興味津々だったの?


「いらっしゃいませ。本日はどのような御用でしょうか?」

「あ、えっと、りゅ......こっちの子の眼鏡を買いに来たんですけど」


 なんだかやたら笑顔の圧が強いお姉さんが出てきたなぁ。他にも店員さんはいるけど、全員が眼鏡をかけている。眼鏡屋さんだからそういうルールでもあるのかな?

 

「どのようなタイプがご希望ですか?」

「うーん......眼鏡自体初めて買うので、色々見たいんですけど」

「かしこまりました。それではお決まりになりましたらお声かけくださいませ」


 眼鏡にタイプなんてあるの?相手の戦闘力を測れるやつとか?恥ずかしいから絶対に買わないけど。

 案内されたレディースコーナーへと向かうと、フレームの形やレンズの大きさ、そして色違いなどたしかにたくさんの種類が陳列されていた。


「とりあえず気になったの掛けてみようよ」

「ん。............?見えない」


 龍ヶ崎さんは端にあった眼鏡をかけてから首を傾げた。うん、そりゃそうだ。


「ここにあるのは見本だから度が入ってないんじゃない?そこは個人差があるから視力測らなくちゃだし」

「そっか......」


 次々と試していくけど、なかなか難しい。四角より丸型のほうが柔らかい印象あるしいいとは思うんだけど......。

 結局3種類までは絞り込めたのだけど、そこからが本番だ。あまり俺の好みを押し付けるわけにもいかないしなぁ。かといって龍ヶ崎さんも決められないようだし。


「そうだ、写真撮って妹に相談してみてもいいかな?」

「妹......?」

「うん、俺より女の子同士の意見聞いた方が参考になるかなって思ってさ」

「ん、大丈夫」


 店員さんに撮影を聞くと快く了承してもらえたので、妹に電話してみるとまさかのワンコールで出た。たまたまスマホいじってたのかな?

 ともあれ事情を説明しお願いすると興味津々なようでOKが出た。

 そしてさっそく3種類の眼鏡をかけた龍ヶ崎さんを撮影していく......のだけど、緊張しているのかめっちゃ俺を睨んでいる。

 こんな写真送ったら妹もビックリしてしまう。多分笑ってと言ってもなかなか難しいだろうし、なにか手はないかな......。


「あ、そうだ。あの鏡使ってみようよ。そこに立って......そう、じゃあ撮るよ」


 鏡に映る龍ヶ崎さんを撮ればいいんだ。そうすれば睨むこともないしね。

 たまたま俺が一緒に写りこんでしまったとしても、これは不可抗力だ。仕方ないんだ。

 龍ヶ崎さんが睨むことも無く、無事に3種類の写真を妹に送信した。ふう、ミッションコンプリートだ。

 するとすぐに返信が来て、1番最後のがオススメと言われた。さすが俺の妹、俺と同意見だ。

でも『今度家に連れてきなさい。お兄に相応しいか私が見極めます』っていうのは余計だよ。彼女じゃないからね。


「龍ヶ崎さん、俺と妹はこの最後のやつがいいと思うけど、どうする?」

「これにする」


 迷わず答えた龍ヶ崎さんの口元は歪んでいるようにも見える。まぁ力になれたのなら良かったよ。

 店員さんに伝えると眼鏡の準備と視力検査をするということで案内された。いや、俺まで連れていかなくて良くない?

 サングラスとかファッション眼鏡とか心惹かれるコーナーを見てみようと思ったんだけどなぁ。


「ちなみに当店ではカップル割りというのがございまして、もう1つお買い上げいただくと2点目のフレームが無料になりますが、彼氏さんも是非いかがでしょうか?」

「へ?」


 眼鏡屋さんでカップル割りとは......。なんか遊園地とかならまだ分かるけどさ、カップルで眼鏡買いに来る人達っているの?2人分?え、お揃いにしちゃう感じ?

 いや待て待て。そういう人達がいるかどうかは別として、俺達がそう扱われるのは違うんじゃないの?龍ヶ崎さんは友達だし。


「志位食君も、買う?」

「買います!」


 カップル扱いを否定しなきゃと思ったらつい口が勝手に動いていた。だってそんな期待するような目で見られたら嫌とは言えないじゃん?実際嫌じゃないし。

 ということで、龍ヶ崎さんが視力検査をしている間にパパっと選んでこよう。

 さて、この眼鏡選びは重要だ。龍ヶ崎さんのと同じタイプか、全く違うタイプを選ぶのか。

 普段使わないだろうし、どうせならお揃いっぽくしたい。でもバレたらなんて言われるかと思うと怖い。

 別のタイプと言っても特に気になるのも無いんだよなぁ。どうしよう......。


「——これ......一緒、する?」

「ひゅっりゅりゅ龍ヶ崎さん!?」

「今、レンズ作ってる。これにするの?」


 え、そんなに長い時間考えこんでたの?しかも龍ヶ崎さんの視線は俺が悩んでいた眼鏡に注がれている。

 でもなんだか笑っているような気がするのは気のせい?眼鏡が楽しみだから?


「い、いやー、これもなかなかオシャレでいいよねーって見てたんだ」

「お揃い、嫌?」

「これにします!」


 こんなの断れるわけがないよ!断る気もないけど!

 ということで2人分の眼鏡が決定しましたとさ。龍ヶ崎さんが言うならお揃いになっても仕方ないよね!ふふ、出来上がりが楽しみだなぁ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る