第10話 赤面


 朝、登校すると教室の入り口付近で元太が友人と談笑していた。俺たちに気が付くとビクッとして一瞬顔を背けられてしまう。多分だけど龍ヶ崎さんを見ないようにしているんだろうね。

 指導室の件が好き勝手噂されてるみたいで、昨夜は元太からも『龍ヶ崎さんがテストの点数改竄しようと先生ボコボコにして指導室連れていかれたってよ。やっぱり関わらない方がいいぞ』とメッセージが来ていた。

 いや、何がどうなればそんな噂になるのさ。根も葉もない噂を信じる元太には少しイジワルしてしまおう。喜ぶ可能性もあるけど。


「おはよ、大島」

「児島だよ!あ、いや児島でもねぇわ!」

「でもでもでもでも?」

「そんなの関係ね.....ってやらすな!そっちの小島でもねぇ!」

「はいはい、だけど年中うな重ばかりもどうかと思うよ?」

「それも違う!たしかに名前は元太だけど!俺は中島だ!」

「朝から元気だね〜」

「おかげさまでな!」


 今日もツッコミが冴えてるね。ふと龍ヶ崎さんを見てみると顔を背けて肩を震わせていた。あれ?もしかして笑ってる?ヤバい、その顔を見てみたい。

 ゲームでもクール印象だったし、そういう豊かな表情がもっと増えればいいなぁ。

 しかし凝視しなければ個人が判別出来ないほど視力が悪いとはね......。もしかしてクラスの皆を睨んでいたのは、友達同士でお喋りしてるのが羨ましくて見ていたのかな?

 

「元太、今日はお昼一緒に食べようよ」

「い、いや......今日の昼は、部活の用事があってだな......」


 うん、嘘だね。目がすごい勢いで泳いでるよ。世界水泳でも目指してるの?

 こないだ、食堂で逃げてからというもの、誘っても何かと理由をつけて断られてしまっている状況だ。あれも元太の顔を認識しようとしただけで睨んだわけではない、と説明してもダメだった。

 おかげで食堂では俺と龍ヶ崎さん、2人きりの空間が出来てしまっている。

 いやそれはそれで嬉しくないわけじゃないんだけどさ、周りに気を使わせてるのも申し訳ないし、龍ヶ崎さんには皆とも仲良くなって欲しい。

 やはり眼鏡は必須だ。来週になれば皆の反応も変わると思いたい。ふふ、楽しみだなぁ、眼鏡姿の龍ヶ崎さん。


「龍ヶ崎さんの好きな色って何?」

「......赤?」

「赤かぁ、眼鏡も赤にする?」

「志井食君は何色がいい?」


 ん?なんで俺に聞くんだろう。自分の好きな色にすればいいと思うんだけど......。あ、似合うのか自分じゃ分からないのかな?

 うーん......赤茶色の髪だから赤も似合うと思うけど、最初の内は返り血が......とか言われたら龍ヶ崎さんが悲しむかもしれない。

 可愛くピンク?思い切って青系にしてみるとか?いや、少し真面目っぽく黒もいいな。


「......龍ヶ崎さんは可愛いから何でも似合いそうだし悩むねぇ」

「か、かわっ!?」

「え?......もしかして今、声出てた?」

 

 赤くなった顔を少し俯かせた龍ヶ崎さんに聞いてみると、その首を小さく縦に動かした。うっかりだったけど、これはこれでいいモノを見れたから良しとしよう。


「急にそんなこと言うのはズルい」

「まぁでも事実だし」

 

 今は正真正銘俺を睨んでいるつもりなんだろうけど顔が赤いから全く怖くないし、油断すると見ているこっちがニヤニヤしてしまうそうだ。

 言われ慣れてないからかこんなに可愛い反応するのに、怖がられてるのが本当に勿体ない。

 もっと見たいから積極的に褒めたいけれど、あいにくと俺にはそんな勇気は無い。言えたとしても俺の方が赤面する自信しかないよ。

 褒めるのは大事だってのは妹に散々言われてきたから分かってるんだけど、いざ口にするとなるとなかなか難しい。少しずつ、簡単なところからチャレンジしてみようかな。

 

「色もだけどさ、形も色々あるよね。レンズの大小とかフレームがあったりなかったりとか」

「難しい。志井食君に見極めてもらう」


 見極めるって何?俺にそんな能力ないよ?似合うかどうかも俺個人の意見でしかないし、正直センスがあるとは言えない。

 教室を見渡せば眼鏡をかけている人は何人かいるけど、当然皆同じものではない。あのシルバーのフレームカッコいいな。

 別に視力が悪くはないけど俺も眼鏡かけてみようかな......いや、俺が伊達眼鏡なんてかけ始めたら「陰キャがなにイキってんだ」とか因縁をつけられるかもしれない。

 待てよ?龍ヶ崎さんとお揃いに出来るって考えれば......ダメダメ、そんなことしたら龍ヶ崎さん本人に気持ち悪がられちゃうよ。

 

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