第9話 指導



「龍ヶ崎さん、なんの用だったの?」


 週が明けた月曜日、俺は久しぶりに1人で帰宅した。理由は、龍ヶ崎さんが生徒指導室に呼び出されてしまったからだ。

 待っていようかとも思ったが、龍ヶ崎さんに先に帰ってと言われてしまった。

 さらに教室では「また喧嘩した」とか「いやいやカツアゲじゃね?」とか憶測だけでものを言う人たちばかりだったので、耐えきれずにさっさと帰ることにした。

 そして夕食を食べるために来た龍ヶ崎さん本人に聞いてみたのだ。


「こないだのテスト、点数悪くて怒られた......」

「え、そんなに悪かったの?」


 呼び出されるって相当悪かったってこと?平均を下回ったくらいじゃそうそう呼び出されはしないだろう。そんなに難しかったかなぁ。

 

「このままじゃ留年かもって言われた」

「それは一大事だね。ゲームしてる場合じゃないでしょ」

「......黒板見えないのが悪い」

「その言い訳は苦しすぎるね」


 いくら1番後ろの席だからって黒板くらいは見えるよ。俺も普通に見えるし。まさかとは思うけど......。


「龍ヶ崎さんってさ、もしかして......目悪いの?」

「......良くはない」

「ちょっと試してみようか」


 龍ヶ崎さんをそこに座らせたままキッチンのほうへ距離を取って指を3本立てる。


「これ、何本に見える?」

「んん......志井食君が2人いる」

「いやいないから。人を勝手に分裂させないでよ」


 指どころか俺自体すらも認識が怪しいのか......。でもこれで謎が解けてしまった。だって龍ヶ崎さんは今まさに俺を見ているんだもの。

 つまり、相手の顔を認識しようとすると睨んでいるように見えてしまうというわけだ。いやー、原因が分かって良かった良かった......ってなるかい!

 いつから視力が低下したのか分からないけど、現状の生活から考えるとゲームと食生活のような気がする。むしろ他にあるのだろうか。


「見えないと不便」

「眼鏡とかコンタクトは?」

「眼鏡は転んだら壊れそうだし、コンタクトは......怖い」


 たしかに目に物を入れるって怖いかもだけど、眼鏡についてはどうだろう......。もしかしたら、何も無い所でよく転ぶのも目が悪くて距離感がつかめないせいという可能性もあるし。

 眼鏡姿の龍ヶ崎さんかぁ......正直めっちゃ見たい。元は間違いなく美人だし笑った時は可愛いから、睨むことさえ無くなれば皆の誤解も解けるに違いない。


「とりあえず、眼鏡買ってみない?似合うし色々解決すると思うんだよね」

「し、志位食君が言うなら......」

「よし、じゃぁ週末買いに行こうよ!」

「い、一緒に?」

「あ、ごめん......必要ないよね。つい口に出ちゃっただけだから忘れて!」


 しまった、つい当たり前のように一緒に行こうとしてしまった。眼鏡姿も早く見たいのと1人だと心配なのと、あとゲームでも話す時間増えて調子に乗ってたな。

 せっかく仲良くなり始めたのに、嫌われたら終わりだしあまり踏み込みすぎるのも良くないよね。


「必要!だから一緒に来てほしい」

「うん分かってるよ。今後はちゃんと弁え——って、え?」

「志位食君と一緒がいい」


 はい、ここで問題です。服の裾を摘みながら可愛い女子に「必要」と言われた時の俺の気持ちを答えなさい。(配点10)

 男子なんてね、チョロい生き物なんだよ。特に俺みたいなモブはね!

 落とした消しゴム拾ってくれただけでももしかして気があるんじゃ?とか思っちゃうくらいにはね。だって周りの人なんて気づいても見るだけで拾おうともしないよ?男子も含めて。

 それが、目つきはアレだけど美人な女子が自分の部屋にいて、一緒にゲームしてご飯食べて、さらに「必要」「一緒がいい」なんて言われたらもう舞い上がって大変だよ。

 毎日がエヴリデイでフェスティバルだよ!うん、ちょっと何言ってるか分からない。

 で、何の話だっけ?えーと......あ、そうそう眼鏡を買いに行くんだった。どんな眼鏡が似合うだろうか。楽しみだなぁ。

 ......あれ?これってデート?どどどうしよう!?そんなのしたことないし何着ていけばいいの!?

 こうなった誰かに相談するしかない。元太......いや駄目だ。俺と同じくデート童貞だし信用出来ない。

 こうなったら妹に聞いてみるか。中学生だけど、女子に関することは女子に聞いた方がいいに決まってる。色々聞かれそうだが背に腹は代えられない。

 待ってろよ、俺の初デート!

 

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