第2話 餌付け
夕飯の支度を終えようかという時に突如インターホンが鳴った。いまだ外では雨音が騒がしいというのにいったい誰なんだ。
覗き穴から見えたのは、まさかまさかの先ほど転んでいたジャンキーヤンキーだった。え、何の用?もももしかしてパンが1個足りなかったとか?
誤魔化そうにも家にいるのはバレている。普通に電気付いてるしごはん作ってたしね。......諦めるしかないようだ。
「どうかしたの?」
「......ん」
ドアを開けると同時に突き出された手。そこには先ほど拾ったカップ麺が1つあった。え、どういうこと?
「ん!」
戸惑っているとさらに突き出されるカップ麺。そんな、傘を押し付ける短パン小僧みたいなことされても......。おまえんち、おっばけやーしきーとか言われたら......いやちょっと見てみたいかも。
さっき拾った時にどこか破損したとか言いたいのかな?と思って一応手に取って見てみるけどどこも破れたりしているようには思えない。
「......あり、がと」
ボソッと呟かれた言葉。これってもしかして......。
「俺にこれくれるってこと?」
聞いてみると龍ヶ崎さんは首を縦に振った。さっき助けたお礼ってことかな。だけどお礼がカップ麺っていうのは正直どうなんだろうって思う。
しかもさっき俺が拾ったやつだし、そもそも食料には困ってないんだよね。
まぁせっかくくれるっていうなら受け取っておくか。向こうは押し付ける気満々だしね。
しかし受け取ったのに龍ヶ崎さんは動こうとしない。まだ何かあるのかな。
「......いいにおい」
呟きと共に『くぅ~』という奇妙な音が聞こえた。音の発生源を探すと、龍ヶ崎さんの頬に赤みがさしていた。
あれ?ちょっと待てよ......。ここのアパートに住んでいるってことはひとり暮らしだよね?それにあのカップ麺とパン。まさか......。
「龍ヶ崎さんってご飯は?」
「......まだ?」
いやそうじゃなくて、いつもどうしてるのかなっていう質問だったんだけど。しかもなんで疑問形?うん、これは俺の聞き方が悪かったね。
「夕飯まだなら一緒にどう、かなって......」
「食べる!」
口を開いてから何故こんなことを口走っているんだろうって自分で思った。まぁ仕方ないよね、狂犬どころかむしろ捨てられた子犬みたいに見えちゃったんだから。
しかも龍ヶ崎さんは食い気味に肯定の意を示して首を縦にブンブンと振っている。まるで揺れる尻尾まで見えそうだ。
幸いというか、俺は一気に作って冷凍保存しておくタイプなので一応分けるだけの余裕はある。というかそれを狙って来た?あまりにもタイミングが良すぎるんだけど......。
「味の保証は出来ないけど、どうぞ」
「すごい!このハンバーグ、作ったの!?」
龍ヶ崎さんを部屋に入れて準備をしようとしたのだが、何故か俺の後ろをついて来る。
座って待っていてと言ったのに、キッチンとテーブルを往復する俺の後ろをついてくるのだ。しかも何かを持つわけでもなくただ歩いているだけだ。やりにくいったらありゃしない。
ようやく準備を終えて2人で手を合わせると、今度はものすごい勢いで食べ始めた。まるでリスのように頬がパンパンだ。
気に入ってくれたのならいいけど、あまり急いで食べると......。
「......んぐっ!?」
「あーもう、はい、お茶飲んで」
「......ぷはぁ!危なかった」
「そんなに詰め込むからだよ。料理は逃げないからゆっくり食べないと」
「......美味しいのがいけない」
美味しく食べてもらえるのは嬉しいけど、料理のせいにしないでほしい。
「普段はご飯どうしてるの?」
「......コンビニかカップ麺」
やっぱりそうか......。俺も面倒くさい時はそうなるけど、さすがに毎日というのはなぁ。栄養面も心配になるけど、今日初めて喋ったのにあまりでしゃばるのも良くないよね。
「ごちそうさまでした!すっごく美味しかった!」
「お粗末様でした。口の周り、ソースが付いてるよ——ああ、ストップストップ!」
指摘すると袖で口を拭おうとしたので慌てて制止して、代わりにティッシュで拭ってあげる。まったく......天然というかドジっ子というか。もはや子犬にしか見えなくなってきたよ。
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