ヤンキーと恐れられているクラスメイトはただ目つきが悪いだけのチワワでした。
もやしのひげ根
第1話 狂犬
「じゃ、気を付けて帰れよな!」
「ああ、傘助かるよ。また明日な!」
学校帰りに友人の家で遊んでいただけなのに、帰ろうとしたらすでに外は土砂降りだった。もっとちゃんと天気予報見ておくんだったなぁ。
傘を借りて帰ったが、やはり少し濡れてしまった。我が家であるアパートの2階へ階段を上ってようやく一息つける——と思った瞬間、俺の時間はピタリと止まってしまった。
——部屋の前に誰かが倒れている。この大雨の中動かないなんて普通じゃない......まさか殺人事件!?急いで辺りを見回すが誰もいない。
「......ふぅ」
危なかった......黒い人影でも見えてしまったら俺もやられてしまうところだった。妙に冴えた小学生にも要注意だ。
少し落ち着いて見てみると、その人影はわずかに動き出した。どうやら転んだだけのようで少し安心した。
それに、どこかで見たことがあるような気もする......そうか、制服だ!あれはウチの高校の制服なんだ。
あたりに散らばっている物を拾いながら近づいていく。そして起き上がってこちらを向いた彼女の顔を見た瞬間、俺の時は再び止まった。
見間違いでなければ俺は彼女を知っている。赤茶色の髪に鋭い目つき。口数も少なくて誰とも関わらない。さらには怪我が絶えず喧嘩に明け暮れているヤンキーだの狂犬だのと言われている。
それが彼女——
今年初めて同じクラスになったものの、話したこともないし噂で聞いただけだ。彼女は有名人だが、俺はただの一般男子高校生だ。モブオブザイヤーを受賞する日も近いかもしれない。
髪と目つきについてだけは少なくとも事実だったと言っておこう。怖すぎてちびるかと思った。
「だ、大丈夫......?」
黙っているわけにもいかず、とりあえず声をかけてみる。すると彼女はゆっくり——ニヤリと笑った。そして俺の心臓は本日3度目の活動停止に陥った。
なんだあの笑みは。まるで獲物を見つけたと言わんばかりの獰猛な笑み。
ど、どうする......一見退路はあるようにも見えるが、背を向ければあの笑みのまま追ってくるに違いない。顔を見られた以上逃げ場などありはしないのだ。
「ん......だいじょう、ぶ」
しかし予想に反してあっさりとした声が返ってきただけだった。あれ?彼女をよく見ると服のところどころが濡れて汚れてしまっている。喧嘩......いや、この雨の中で?
まぁモブの俺が気にするようなことでもないか。それよりも俺が拾い集めた物のほうが気になってしまう。
転んだ拍子に袋が破けて中身が散乱したのだろうが、他の物は見当たらない。これではヤンキーというよりジャンキーじゃないか。
我に返った龍ヶ崎さんは急いで鍵を開けて拾ったものを部屋に運び始めた。俺も手伝おうかと思ったのだけど、龍ヶ崎さんに入り口でブロックされて奪われてしまった。自分のテリトリーに入って来るなということかな。
まぁ無事ならいいかと俺も自分の部屋に戻ってからふと思ったんだけど......隣の部屋に住んでたの!?あの龍ヶ崎さんが!?
ビックリしすぎて叫んじゃうところだったよ。同じアパートの住人なんて見たことも無かったけど、同級生の女子......しかも誰もが恐れる龍ヶ崎さんだなんていったいどんな確率なんだ。
いや待て落ち着け。だからどうだってこともないだろう。俺はモブ中のモブ、
——まさか1時間後に覆されるとも知らずに。
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