第二十六話 雪解け
「フラン、緊急事態だったから投げたが、大丈夫か?」
顎を地面につけ尻を上げる、しゃくとり虫みたいな恰好で地面に落ちているフランは、悲しげな声を出した。
「……わたくしは……やはり、飛車角落ちのような存在……なのでしょうか……?」
前言ったことをどんだけ気にしてるんだ。
……そういえばクオンとマジョリオの逸話で、悪徳金貸しをクオンが飛車角落ちの将棋でやっつける話があったはず。もしやそれと重ねて嫌がってるのか。考えすぎにもほどがある。
「まぁ……予報外の展開でも冷静に動くには、とにかく戦場の空気に慣れるしかないからな。仕方ない」
「……」
フランは悔しそうな顔をしながら立ち上がる。涙は引っ込んでいるようなので何よりだ。
「しかし……パラダイムシフターとランスリリーサーの、機械という類似、装甲の類似、鋏の類似、そしてこの襲撃……まさかとは思ってたが、自分から答え合わせしてくれるとはな」
フランのもとへと歩み寄りながら、俺は一つの結論にたどり着く。
「機械審の槍傷やあの箱に、A国が関係してるのは、もう間違いないだろうな」
「A国が……?」
「思うに……あの箱の中には何か、機械を作り出す特異物が存在してるんじゃないか」
機械神の槍傷という迷宮を埋め尽くすガラクタと、明らかに箱から槍を抜くために生み出されたランスリリーサー。クロンダキアが機械を生んでいないなら、出てきた場所は箱しかない。
「A国はそれを押さえて、パラダイムシフターの製造に使った。そう考えれば色々と納得がいく」
大半はガラクタとはいえあの規模の迷宮を埋め尽くすほどの生産力と、ごく少数とはいえ一級異獣を生み出す技術力。外部からうまく調整してやれば、一級相当の兵器量産なんてふざけた真似事もできるかもしれない。
B国が追い詰められながらもパラダイムシフターの生産拠点を全く叩けなかったのも、場所がクロンダキアの地下にある未知の迷宮だったなら当然だ。
……B国を首になった俺がその事実に迫ったのは皮肉だが、今はもう、戦争なんてどうでもよかった。
「なぁ、フラン。フランクローネ」
砕けて爆ぜて崩れた川のほとりで、俺はフランに向き直る。
フランは前で手を組んで、静かに俺の言葉を待っていた。
「ミル・クロンダキアの底の底……あの箱の中には、世界樹の槍を刺され、地下を機械の墓場に変え、今この世界の情勢を左右している何かがいる」
「はい」
「俺は気になる。例え国を敵に回しても知りたい。世界を揺るがす国家機密。誰も知らない極上の未知。それを見て、聞いて、触れて、たくさんの視聴者にぶちまけたいと思ってる」
「……はい」
「戦争の当事者でもないのに、戦争中の国家に大損害を与える……常識がない俺が狂気の沙汰だと自覚する程度にはイカれた冒険になる。世界樹放火なんか目じゃないほど、世界中に火種をぶちまける配信になる。だから一度しか言わないぞ」
頭を下げて、手を差し出す。
最高の迷宮配信にするにはあんたが必要なのだと、想いを込めて、告げる。
「頼む。俺と一緒に来てくれ」
それはなんとなく、愛の告白のようでもあった。
「…………」
フランは息を吸い込み、吐いて、また吸って。
「そうですね……炎上系迷宮配信者であれば……たまには国を炎上させることもあるでしょう……」
吹っ切れた顔で笑って、俺の手を取った。
「ふつつかものではございますが……どうか末永く、よろしくお願いいたします」
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