第十三話 コメント返しコーナー

「さて、余裕ができたところで視聴者の皆と会話していきたいと思う」


 ハンドルを握りながら、おもむろにそう切り出した。


「このタイミングで……で、ございますか……?」


「今だからだよ。途中コメントにろくに反応できなかったからな」


 戦っていたりフランと相談しているとなかなかコメントに絡みづらい。これからも配信をやっていくなら改善の余地ありだ。


『質問ってなんでもいいやん?』


「内容によるが努力はする」


『鳩さんは、どんな特異物を装備してるやん?』


 コメントを見たフランが困ったように眉根を寄せてこちらを見た。


「これは……お伺いしてもよいこと……なのでしょうか……?」


「いいよ、別に隠してることでもないし」


 知られたからどうなる類のものでもない。


「ただ、言ってもわかるかどうかは保証できん」


『スッゲーちょっとだけ特異物の知識はある……!』

『教えてくれたら調べるやん』


「わたくしも……特異物の種類は……多少、心得ているつもりではございます……」


 そこまで言うなら拒否する理由はない。


「一級特異物、【焼結佳人(アイドライズド)】だよ」


「……アイドライズド……!?」


 フランが息をのむ。


『マジ?』

『知ってるやん?』

『(語録殺)知ってる。マジならマジですごい』


「アイドライズドは……頭の良さ、容姿、性別等々『望む要素を持った人間』になる焼印でございます……」


 視聴者に向けてフランが解説を入れてくれる。


「大昔に四つ出回って、その後一切確認されていない非常に希少な特異物……まさか、鳩さまが持っておられたとは……」


 フランはちょっと興奮気味だ。


「文献には、ごく簡単なイラストしか……載っておりませんでした。拝見させていただいても……よろしいでしょうか……!?」


「改めて見せるようなものでもない。手の甲のこれとこれと、顔のこれだ」


 左右の手の甲と顔にあるアイドライズドを指で示す。


『それなの!?』


「それだったのですか……!?」


 フランは死ぬほどびっくりしていた。


「てっきり……入れ墨だとばかり……。文献にあった骸骨の柄もございませぬし……焼印という風でもないのですね……」


「まぁどちらかというとシールみたいなもんだな。張ると高熱で皮膚に癒着するから焼き印って呼んでるんだと思う。骸骨の柄は、貼る前と効果が安定しないときには浮かんでくるが、安定してたらこんな感じで真っ黒だ」


「なるほど……しかし、普段から骸骨の柄が出ていないのは幸いでございますね……出ていたら……完全なる反社会的勢力でした……」


「それは言い過ぎだろ」


「しかし、顔の入れ墨めいた模様は怖いですし……目にハイライトはありませんし……なんとなく雰囲気的に、女を殴っていそうですし……」


『スッゲーひどい発言……!』

『(語録殺)もはやただの悪口だろこれ』

『こやつはノンデリの翁と呼ばれておる』

『でも正直わかるやん』

『それはそうやん』

『うんやん』


「…………」


 女殴ってそうはないだろ……。


「え……? マジへこみ……でございますか……?」


 いやそれは誰だってへこむだろ……と心中で嘆いた、その時、俺はそれの存在に気づいた。


 強くブレーキを踏み込む、フランが吹き飛ばないように肩を押さえつつ、巨大なタンクの残骸の影に隠れるようバギーを止める。


「は、鳩さま、何を……? まさか、それほどまでにショックを……」


「違う。いやショックだったのは違わんが、止めた理由は違う。あれを見ろ」


 指をさす。


 目的地である謎の箱の手前。

 禍々しいムカデのようなものが、とぐろを巻いていた。

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