第十一話 クロンダキアの異獣たち
「!?」
フランの背後から現れたのは未知の異獣。無数の配管で出来た体を黒ずんだぼろ布で覆った、スピーカー頭のロボットだ。
スピーカーからは常に耳障りなノイズが流れ出していて、まるで悲鳴を上げているかのように思える。
未知の異獣。金の小窓のAIがすぐさまその存在を分析し、名前を付けた。
【警報男(スクリーム・ボーイ)】。二級異獣だ。
不規則に左右に揺れながら、【警報男】がフランに向かって接近し、尖った配管の腕を向ける――より早く俺はその顔面をぶん殴った。
ノイズよりも大きな音を立ててスピーカーがひしゃげ、巨大な力で丸めて投げられたアルミホイルのように警報男は物凄い勢いで遙か遠くまで転がっていった。
しかしそれで終わりではなかった。俺たちの周囲に追加で十数体もの警報男が出現する。
「つまらない話かもしれんが。格下相手にはゴリ押しが一番有効だと思ってる」
益体もないことをつぶやいて、駆け出す。
指先で壊れた警報の喉笛を刺し貫く。警報男は両手で俺の手を掴み指を引き抜こうとしたものの力が足りず、腕が肘まで埋まったところで力尽きた。
相手の沈黙を確認しすぐさまその場を飛びのく。コンマ1秒後、別の警報男のスピーカーから吐いた極低温の液体が俺の場所に降りかかり、倒れていた警報男を粉々の氷粒子に変えた。
稲妻のようなステップで液体を吐いた警報男へと向かう。すれ違いざまに首部分を引き千切ると、足下の瓦礫から上半身を出していた警報男の頭を踏み付ける。警報男は無理やりにでも這い出ようとするが、脚力でゴリ押して首をへし折る。
まだ終わらない。グリンと振り向くと、爆発的な跳躍でスクラップの山へと向かう。狙いは、スクラップの山に隠れてこちらにスピーカーを向けていた一群。
空中で一回転、一番近い警報男に踵落とし。警報男は粉々になり、余波でスクラップの山はクレーターとなった、他の警報男はもはやどこにいたのかすらもわからない。
とどめ。俺は着地した先に突き刺さっていた飛行機の翼のような物体を引きずり出すと、並んでいた三体の警報男に向かって投げた。全長十メートルを超えるブーメランと化したそれは柴刈り機のように地上を嘗め、警報男ごとスクラップ場を平らにならした。
「打ち止めか」
『(語録殺)これコラ動画?』
『これは生配信……つまりはTRUTH』
『スッゲー猛者……!』
『思ったよりヤバい配信を開いたかもしれないやん』
戦闘シーンがあると動画映えをするのか、コメントが少しにぎわう。
ともあれ、剥がれた塗装のような手の汚れを払いながらフランの下に戻る。
「さすがに……お強うございますね……」
フランは感心しきりといった風だった。
「こんくらいの余裕がないと危険地帯にあんたを連れて行けないだろ」
半ば無理やり連れだしておいて守れませんでしたは通らない。
「一応、護衛はそれなりに経験がある。紛争地帯に置いてかれた観光客を連れ帰ったりな。大船とは言わんが、まぁ駆逐艦に乗ったくらいの気分でいてくれ」
「…………観光客……でございますか……」
どこか口惜し気な顔だった。
いや、そこ引っかかるところか? あるいは、観光客に何か嫌な思い出でもあるのか。とりあえず、今後彼女を観光客扱いするのはやめておこう。
「ところで……炎はお使いになられないのですか……?」
「炎を出すとどうしても熱が出るからな。護衛の時は使いづらい」
炎のダメージ源は大半が熱。そしていくら炎の熱量を操作できるとは言っても戦闘で熱は抑えない。
熱のない炎を緩衝材のように使うこともできるが、事故を考えると最初から使わないほうがいいのだ。
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