第九話 配信準備その2

 フランの指導の下、コールドゴールド社の作ったサイト、Cムービーズに配信用のチャンネルを作る。これがないとそもそも配信を公開する場所がないらしい。知らんかった。


「さすがに、あの放火の動画を撮影いたしましたチャンネルは……差し上げられませんが……。

 クロンダキアの放火魔であることを自白した上で、あの不思議な炎をお見せすれば……視聴者はそこそこお越しくださるかと……」


 色々手っ取り早いのでオススメでございます……とフランは言った。確かに放火の件がなぁなぁになっている今ならメリットは大きくデメリットは少ないかもしれないが。


「…………いや、まずは一度このままやってみるのもアリだな」


 昨日の視聴者は最終的に50万人を超えていた。数が多いことは悪いことじゃないが、チャンネルの存在すら知らない俺ではその数をさばけると思えない。


 それに昨日の俺は世界樹に放火をしただけで配信自体にはろくに関われていないのだ。経験値はないに等しい。


 だからまずは一度、ごく普通に配信をやってみて配信の流れというものを掴んでみたい。

 配信のコツを掴んで、その後でどうしてもたくさんの視聴者が欲しくなったなら、その時改めて放火魔であることを自白すればいいだけの話だ。


「……まぁ、最後まで視聴者が皆無……ということはございませんね……。

 ただいまクロンダキアの地下は……一番の注目のスポットでございますし……」


「それなら安心だ」


 さすがに視聴者0人は辛すぎる。それが配信者の洗礼だとしても俺には耐えられない。


「チャンネル名は……どういたしますか……?」


 金の小窓の空中投影ディスプレイを出しチャンネルの設定をしてくれていたフランが尋ねる。


「【迷宮炎上配信者】にしといてくれ」


「直球でございますね……」


「なら読み仮名でもつけるか。サルファイヤーとかどうだ」


 硫黄のサルファと燎原のファイヤーを組み合わせた超しゃれた呼び方だ。


「……人の好みは人それぞれでございますれば……」


 なんだその奥歯にものが挟まったような言い方は。


「それはそれとして……撮影の準備が整いましたので……この淵を降りましたら配信を始めるといたしましょう……」


「そうだな」


 俺が先頭になり、誰かが作った簡易的な階段を降りていく。何らかの特異物で作られたセラミック製の階段は堅牢だったが衝撃に弱そうなところがやや心配だ。


「金の小窓に関しまして……基本的な使用法は……説明書をお読みいただくこととしまして……本日の朝……アップデートにて追加されました……新機能をご説明いたします……」


 後ろをとことこと付いてくるフランがおもむろに金の小窓の追加機能について説明を始めた。


「コメント機能でございますが……サーバーが落ちてしまった件を反省し……AIを搭載することにいたしました……。有用であったり、盛り上がるコメントを……優先して表示するようしたのでございます……。荒らし対策にもなりますゆえ……」


「アクセス集中時のサーバーダウンを解消するために、サーバーを強化するんじゃなくアクセス自体を間引いたのか。コメントの整理がユーザー体験を向上することにも繋がるなら合理的かもしれないな」


「……鳩さま、もといナハトさまは……ネットに強いのか弱いのか……意味不明でございますね……」


 思うところありげにフランが呟いた。


「インターネット技術はまだわかるが、ネットの文化? 的なもんが今一わかってないな」


 有り体に言えば知識にムラがある。

 もっと言えば、このことに限らず、アリルナハトという傭兵は知識や価値観に妙にムラがある……というのが傭兵仲間の弁だ。納得するしかない分析だった。


「だから今日、あんたがいる内にせめて配信の雰囲気くらいは掴まないとな」


「ナハトさまなら……学ぶ機会さえあれば……問題は起きないかと存じます……」


 そうだったらいいが、俺には世界樹でバーベキューをしてしまったという実績がある。自信はあまりない。


「ちなみにではございますが……金の小窓のAIには……未発見の特異物等に名前をつける機能もございます……」


「その機能要るのか?」


「あながち……ばかにしたものでもありません……未発見の土地、それこそこの大穴も……ほら、あんな風に命名を……」


 フランが金の小窓のAI機能だけを有効にしたことで、突如として動画の見出しのように文字が前方に浮かびあがった。

 AIによってこの大穴に名付けられた名は……【機械神の槍傷】。


「これは……なんでしょうか……?」


 フランが首をひねる。


「俺が知るわけないだろ」


 クロンダキアにも世界樹の古森にも、機械神や槍傷といった要素はない。金の小窓がどこからこのワードを引っ張ってきたのか皆目見当が付かなかった。


「……このAIは、ブラックボックス気味な深層学習モデルを……数々の特異物にて強化いたしたものゆえ……結果に至る過程が、分かりかねるのでございます……。高機能ゆえ、デメリットを無視して搭載したのですが……」


「いやそれやばいだろ……」


「とはいえ、購入層の大半は四級迷宮の観光くらいしかなさらぬでしょうし……問題にはなりませぬ……」


 それでいいのかコールドゴールド。

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