83.ありえない丸い展開

 カラミンサ公国の政情が落ち着いている。ホスタ王国も王太后の再婚による同盟に同意し、思わぬ方向で話はハッピーエンドとなった。


「こんな物語に心当たりある?」


「いいえ、覚えがないわ」


 ティアレラとカレンデュラは、地図を前に唸る。すべての物語を思い浮かべても、こんな終わり方は記憶になかった。一般的に王太后殿下は、元王妃であり現王の母親だ。子を産んで王位を揺るがす可能性がないとはいえ、他国の重要人物と再婚なんて。


 まだ若く美しいユーフォルビア相手でも考えられない。完全なハッピーエンドだった。前回の滞在時に友好を深めたカレンデュラは、結婚に際して手紙を送っている。おめでとうのカードを作り、宝飾品を添えて。そのお礼の手紙が届いたが、幸せそうだった。


「ハッピーエンドならいいんじゃないかしら」


 不幸になったわけじゃない。長い別れの末に、初恋が実る展開は好ましいと感じた。ティアレラの感想に、それもそうねとカレンデュラは深読みをやめた。


 地図の上にある五つの国名、その二つに丸を記す。ホスタ王国とカラミンサ公国は、簡単に切れない絆を結んだ。セントーレア帝国とリクニス国も、もうすぐ婚姻で繋がる。カレンデュラは、三角を両国の上に書き足した。


 こうなると、エキナセア神聖国が目立つ。他国と友好関係はなく、同盟もない。多神教が主流の世界で、一神教を貫く宗教国家だ。さらに教皇の死により、混乱していた。


 周辺の小国は数えるほどの脅威ではない。どこかの国が動けば、数日で落ちる国力しかなかった。


「やっぱり、神聖国が危険よね」


「いっそビオラが教皇になったら、丸く収まりますね」


 思いもよらぬティアレラの発言に、カレンデュラはくすくすと笑った。


「考えられないわ、そんな夢物語。でも夢を見るのは自由だわ。そんな無茶苦茶なハッピーエンド、あなたの『花冠に愛を誓う』っぽい展開よね」


「ええ、あの訳のわからない魔法で解決する結末ですね。聖女の魔法でしたし、確かに似ています」


 ありえない。そう思うから、二人とも気楽に笑い合った。


 クレチマスとリッピアからお茶の誘いが入り、二人はテーブルに地図を残したまま立ち去る。エキナセア神聖国の上に、大きなバツを記した地図は、窓から吹き込む風に揺れて……ふわりと舞い上がった。


 床に落ちた地図を拾ったのは、部屋の片付けに来た侍女だ。彼女は地図を丁寧に畳み、通りかかった執事に渡した。彼は紛失しないよう、書斎の書棚に差し込む。この地図が予言のように思い出されるのは、まだ数ヶ月先のことだった。

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