79.神殿の保護の下で
エキナセア神聖国に狙われているため、ビオラは神殿の奥に匿われた。形だけの聖女だが、神殿ではそれなりに価値がある。結実した宗教心の顕れとして、民への奉仕活動に従事した。ビオラの評判は上々で、役目が終わる直前の今も人気が高い。
彼女を奪われると、エキナセア女神に屈したと判断されるのだ。神殿にとって百害あって一利なし。ここは本気で死守する構えだった。男爵家の養女になった実績も大きい。もしエキナセア神聖国に奪われれば、王家も動く事態が想定された。
ただの男爵令嬢でも一大事なのに、デルフィニューム公爵家の後押しもある。大量の寄付金と共に、安全に守ってくれと頼まれれば……今後のためにもビオラを粗雑に扱うわけにいかなかった。
「久しぶりだね」
「ええ。ルピナスに会いたかったわ」
現在は一神官に過ぎないルピナスだが、彼の信仰心と神からの加護は強い。信仰するフランネル神と同じ水色の髪と瞳は、ルピナスが神に愛されている証拠だった。そのルピナスと婚約した聖女ビオラ……神殿が保護するに十分な資格がある。
礼拝者はもちろん、特別な祈祷を望む貴族であっても会えない、最奥に匿われた。安全を確保すると同時に、婚約者と過ごせる時間を手に入れたビオラは、笑顔が絶えない。彼女の水色の瞳も、神の加護と受け止める神殿は、奥の神殿を封鎖した。
「カレンデュラ様やティアレラ様と仲良くなれたの」
「よかったね。ビオラは優しいいい子だから、フランネル様が守ってくださったのかな」
「誘拐事件とか多くて、困っちゃうわ」
「ビオラが魅力的だから、仕方ない。フランネル様にご加護をいただけるよう、一緒に祈ろう」
フランネル神は男の神様だ。水色の神と瞳を持ち、弱き者を助ける正義の神だった。公平さを重視する神でもあるため、神殿だけでなく裁判を担当する部署にも信者が多い。
奥の神殿に飾られた数柱の神様の像に、順番に礼拝した。フランネル神の前では特に念入りに、今後の加護を願う。
「ところで、王家が大変なことになったと聞いたけれど」
世俗を離れたルピナスは、こういった話に疎い。噂話を聞き齧った程度で、大変な状況をまったく理解していなかった。ある意味、中枢部分で事情を知っているビオラは、素直に話し始める。
長い時間をかけて状況を説明し、自分が知る限りの情報を公開した。なるほどと頷く、聞き上手の婚約者の前でビオラは身振り手振りを交えて話す。
数多の神々の像の前で、日本での話も含めて語られ……神々の興味を引いた。
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