35.ドレスで横乗りはしたくないの

 お茶と茶菓子を積んだ箱を騎士達が馬に括り付ける。辺境伯家到着時より装飾品の多いビスチェに上着を纏ったカレンデュラは、危なげない足取りで馬を進ませる。先頭は騎士二人、コルジリネ、女性二人と残った騎士達の順番で駆け抜けた。


 元小国の王族の住まいである別邸は、立派な外観だった。レンガ造りの瀟洒な建物だ。お屋敷と呼ぶより、別荘のような気軽さがある。小国は民と王の距離が近かったようだ。腰の高さ程度の低い門はあるが、周囲に高い塀の痕跡はなかった。


 庭は野草も多く、花樹も小さな野薔薇が咲く程度だ。放置された期間の割りに荒れていないのは、子孫であるカージナリス家が別宅として手入れをしたためだろう。


 途中の道もある程度整備されていた。木の根は放置されたものの、騎乗した高さで邪魔になる枝は払ってある。事前に整備に向かった侍従達の仕事だった。


 予定時間より早く到着したため、すぐに屋敷内へ入る。掃除も問題なく、屋敷の家具や食器も同行した侍従が確かめた。今回は侍女を連れてきていない。ここで、シオンに運ばせた荷物の出番だった。


 大きな包みを開くと、四つに分割されたクリノリンと布が現れる。クリノリンを手早く組み立て、リボンで体に固定した。カレンデュラの腰回りに、丸い骨組みが完成する。そこへ上からスカートを被った。上着を脱げば、下に着こんだビスチェが現れる。


 クリノリンの上に綺麗に広げ、ウエスト部分に飾りを巻く。これでスカートと上着の接合部を隠すのだ。見た目は着飾ったレディの出来上がりだった。スカートを被る際に乱れた髪を、さっさと直す。肩を露わにする正装ドレスに変身した公爵令嬢は、扇を取り出して広げた。


「これは見事だ」


 事前に聞いていたが、感心したコルジリネが周囲を回る。一周して頷いた。シオンは呆然としていたが「俺は、スカートを運ばされたのか?」と呟く。


「あら、これは重要な戦術の一つよ。頭が硬いから、いつも私に負けるのね」


 戦盤で勝てないことに言及され、シオンは肩を落とした。実際、カレンデュラに勝てたことがない。苦笑いしたコルジリネが肩を叩いた。


「到着されました」


 出迎えを兼ねて、玄関で警戒していた騎士が声を上げる。互いに目配せし合い、立場を確認した。


「お通しして頂戴」


 いつもの扇を手に、カレンデュラは玄関ホールで待つ。女性騎士を装うティアレラと、騎士爵をもぎ取ったコルジリネを従えて。到着したホスタ王国の王妃殿下に一礼した。


 国は違えど、王妃である。ドレスで横乗りしてきたのか。皺を気にしながらも、丁寧な会釈を返した。


「長い道のりをお疲れ様でございました。こちらへどうぞ」


 誘いながら、自分が先頭を切る。これは部屋の中に刺客を潜ませていないと示す、一種の儀式だった。扉を開けたティアレラが頭を下げる中、堂々と部屋の中央まで進んだカレンデュラに王妃は感心していた。


 まだ若いのに、臆した様子がない。何より、社交慣れした自信が漲っていた。どうやら自国で最高位の貴族女性を送ってくれたらしい。その配慮を、王妃は有り難く感じた。






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