27.まとめて駆除したい

「ええっと、そうそう。罠に誰か引っかかったみたいです」


 ビオラは言われた通りの言葉を、曖昧なまま伝える。王宮は使用人を含め、さまざまな人が出入りする。うっかり聞かれても誤魔化せるよう、表現をぼかして託された。


「あら、そう。ありがとう」


 立ち上がって部屋を出ようとするカレンデュラに追いつき、コルジリネは手を差し出す。当然のように右手を重ねた婚約者と歩き出した。


「素敵ねぇ」


 うっとりと呟くビオラも、慌てて追いかける。伝言を頼んだのは、オスヴァルドだ。公爵閣下のご命令とあれば! 気合いを入れて飛び込んだ結果、最悪のタイミングで邪魔をした。反省するも、ビオラはすぐに同じような失敗を繰り返すだろう。


 我が家のような足取りで王宮内を歩き、一つの扉の前で足を止める。両側に騎士が立っているのは、中に王がいるからだろう。護衛の彼らに声をかけ、取り次ぎを願う。すぐに許可がおり、三人は王の執務室へ足を踏み入れた。


「呼び立ててすまん。動いたぞ」


「何人でした?」


「カレンデュラの予想を上回る、十四人だ」


 示されたリストには、フルネームと出身地だけでなく役職も並んでいた。侍従や侍女が大半だが、一部気になる肩書きがある。


「文官……騎士?」


「思ったより、入り込まれていたようだ」


 ミューレンベルギアの実家ホスタ王国出身者は少ない。わずか四人だった。代わりにこちらで地盤を築いたのだろう。ホスタ王国に忠誠を誓ったのか、金で靡いたか。貴族家の嫡子以外の勤め先として人気の王宮に、足場を作られていた。


 噂を広げてから、王宮を出ようとした者や外部と連絡を取った者をすべて追跡する。膨大な人を監視する状況を想定したが、思ったより少なかった。そのうち半数が当たりだ。


「足下の土台を食い荒らされるなんて、情けないですわよ。叔父様」


 国王陛下と呼ばないのは温情です。カレンデュラの表情から読み取り、国王フィゲリウスは肩を落とした。実際、こんなに侵食されているなど、夢にも思わなかったのだ。発見しても数人程度、と甘くみていた。


「お父様はどう思われますか」


 話を向けられ、父オスヴァルドは口を開いた。


「フィルが迂闊なのは昔からだが、どうせなら根こそぎ駆除したい」


 害虫か雑草のように表現したが、リクニス国側からしたら似たようなものだろう。勝手に生えてきた面倒な存在で、駆除しても知らない場所でまた増える懸念があった。


「まず、全員を一網打尽にします。その上で……尋問や裁判なしの有罪、見せしめとして公開処刑を発表しましょうか」


「それは……周囲の貴族が反発するぞ」


 一番地位の高い騎士は、伯爵家の次男だ。実家が黙っていないはず。懸念を滲ませた王へ、金髪の公爵令嬢は微笑んで両手のひらを見せた。何かを誘い込むような仕草だ。


「反発したら、実家も罪に問う。連座だと告げるのです。きっと敵同士が結託するでしょうね」


「なるほど」


 コルジリネは先を読んだ口調で頷いた。結託させた敵を丸ごと突き崩す。国は多少荒れるが、帝国の皇太子がいれば抑え込めるはずだ。カレンデュラの作戦は、いささか乱暴なように思われた。

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